はじめに
2026年10月24日、GMO インターネットグループは、子会社の GMO インターネットが提供する「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスを受けて、「能動的サイバー防御」の適用を政府の関係機関に要請したと発表しました。能動的サイバー防御の関連法は、10月1日に主要な部分が施行されたばかりです。GMO は自ら、この件を「発動第1号」の事案と位置づけています。
この記事のゴールは、ニュースの見出しに出てくる「能動的サイバー防御」が、いま法律の上で何ができて、何がまだできず、誰が決めるのかを、自分で説明できるようになることです。そのうえで、今回の事案の経過と、個人と社会インフラがそれぞれ何をすればよいかを整理します。
- 法律の基礎:2 本の法律、段階施行、無害化の手順と歯止め
- 何が起きたか:GMO の公表文による経過、補償、攻撃者の脅迫
- 社会的影響と放置の帰結:金融資産を狙う攻撃と、脅迫型の情報公開
- 二層の対策:個人がすること、事業者と国がすること
先に要点を置きます。
| 問い | 答え(一次資料) |
|---|---|
| 能動的サイバー防御は 10月1日に始まったのか | 官民連携の仕組みと、警察・自衛隊による「アクセス・無害化措置」が始まった。通信情報の利用は未施行 |
| 民間企業が国に「発動」を申請できるのか | 法律に申請の手続きはない。措置をとるかは、警察などが法律の要件に照らして判断する |
| GMO の要請は認められたのか | 2026年10月31日の時点で、政府が措置をとったという公表はない。10月26日の関係閣僚会議で、総理は実態を解明した攻撃には無害化措置も含めて対処すると述べた |
この記事の事実は、GMO の公表文(10月29日20時50分の第16報と、10月30日のお客様へのご案内まで)と法令・政府資料にもとづきます。政府側の発言は報道によるもので、その旨を書き分けます。攻撃の手順や、攻撃者が公開した情報の中身には触れません。
🛡️ 1. 能動的サイバー防御とは
1-1. 2 本の法律と 3 本の柱
「能動的サイバー防御」は法律の名前ではありません。2025年5月16日に成立し、5月23日に公布された次の 2 本の法律で実現される仕組みの総称です。
- サイバー対処能力強化法:正式名は「重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律」(令和7年法律第42号)
- 同整備法:強化法の施行に伴い、警察官職務執行法・自衛隊法・サイバーセキュリティ基本法などを改正する法律(令和7年法律第43号)
内閣官房国家サイバー統括室の説明資料は、中身を 3 本の柱に分けています。
強化法と整備法"] A --> B["官民連携
基幹インフラの報告
協議会・情報提供"] A --> C["通信情報の利用
国外が絡む通信を
分析する"] A --> D["アクセス・無害化
警察・自衛隊が
攻撃サーバーに対処"] B --> B2["強化法 第2・8・9章"] C --> C2["強化法 第3〜7章
未施行"] D --> D2["整備法
警職法 第6条の2
自衛隊法"]
報道で話題になる「無害化」は、3 本目の柱です。条文は強化法ではなく、整備法で改正された警察官職務執行法(警職法)第6条の2と自衛隊法にあります。
1-2. 段階施行:10月1日に何が始まったか
2 本の法律は、部分ごとに施行日が違います。強化法の附則第1条、e-Gov 法令検索の改正履歴、国家サイバー統括室の説明資料(2026年10月版)から確定できる日付を並べます。
| 時期 | 施行された中身 | 根拠 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 2025年5月23日 | 公布。準備行為の規定 | 強化法 附則第1条第1号 | 施行済 |
| 2025年7月1日 | 総則(第1章)。NISC から国家サイバー統括室への改組、内閣サイバー官の新設 | 附則第1条第2号・整備法 | 施行済 |
| 2026年4月1日 | 独立機関「サイバー通信情報監理委員会」の設置 | 附則第1条第3号 | 施行済 |
| 2026年10月1日 | 基幹インフラの報告義務・協議会・情報提供(官民連携)と、警察・自衛隊のアクセス・無害化措置 | 強化法の本体・整備法 | 施行済 |
| 2027年11月22日までの政令で定める日 | 通信情報の利用(第3〜7章)、委員会の検査、関係する罰則 | 附則第1条第4号 | 未施行 |
e-Gov の改正履歴では、警察官職務執行法も令和7年法律第43号による改正が 2026年10月1日に施行されています。つまり 10月1日以降、警察が攻撃に使われているサーバーなどに対処する法律上の権限は、すでにあるということです。一方、国外が絡む通信の情報を国が取得して分析する仕組みは、まだ動いていません。
1-3. 無害化は誰が、どんな条件で行うのか
警職法第6条の2の手順を、流れ図にします。
通信やデータを
警察が認める"] S --> R["要件
放置すれば生命・身体
・財産に重大な危害
緊急の必要"] R --> P["サイバー危害防止
措置執行官
警察庁長官が指名"] P --> Q["独立機関の承認
サイバー通信情報
監理委員会"] Q --> F["国外のサーバーなら
外務大臣と協議
警察庁の執行官のみ"] F --> M["措置
管理者に命じる
または自ら行う"] M --> N["管理者へ通知
委員会は国会に報告"]
条文の要点は次のとおりです。
- 主体は、警察庁長官が警察官の中から指名する「サイバー危害防止措置執行官」に限られる
- 要件は、攻撃に使われる通信やデータを認め、「そのまま放置すれば人の生命、身体又は財産に対する重大な危害が発生するおそれがあるため緊急の必要があるとき」
- 措置は、攻撃に使われているコンピューターの管理者に必要な措置を命じるか、執行官が電気通信回線を通じて自ら行う。説明資料は例として「不正プログラムの消去」「シャットダウン」「攻撃者の再ログイン防止のための設定変更」を挙げている
- 歯止めとして、原則はサイバー通信情報監理委員会の事前承認が要る。承認を得るいとまがない特段の事由があるときは、措置の後に速やかに通知し、委員会が適切だったかを確かめて勧告する
- 国外のサーバーが相手なら、警察庁の執行官だけが行え、事前に外務大臣と協議する
自衛隊は、国の機関や基幹インフラなどの重要なコンピューターに対して、外国の主体による特に高度に組織的・計画的な攻撃があり、自衛隊が対処する特別の必要があると内閣総理大臣が認めたときに、警察と共同で「通信防護措置」をとります。説明資料は、警察と自衛隊の措置を国家サイバー統括室が司令塔として調整すると書いています。
- 無害化:攻撃に使われているサーバーなどにアクセスし、攻撃用のプログラムを止めたり消したりして、攻撃に使えない状態にすること。相手を壊すことではなく、被害を止めることが目的
- 基幹インフラ事業者:経済安全保障推進法で国が指定した、電気・ガス・金融・電気通信など 15 分野の事業者。2026年7月1日時点で 258 者
- ランサムウェア:データを暗号化して使えなくし、元に戻すことと引き換えに金銭を要求する不正プログラム。データを盗んで「公開する」と脅す手口と組み合わさることが多い
- 二要素認証:パスワードに加えて、スマートフォンのアプリや SMS のコードなど、別の要素での確認を求める仕組み
- デスクトップクラウド:事業者のサーバー上で動く Windows などのデスクトップ環境を、ネットワーク越しに使うサービス。自宅の PC を 24 時間つけっぱなしにしなくても、取引ツールなどを動かし続けられる
1-4. 民間企業はどこに立っているのか
法律の中で民間企業が出てくるのは、主に官民連携の柱です。基幹インフラ事業者は、重要なシステムのインシデントを事業所管大臣と内閣総理大臣に報告する義務を負い、国の協議会に加わって情報の共有を受けます。
一方、警職法第6条の2には、民間企業が無害化を申請する手続きは書かれていません。措置をとるかどうかは、執行官が要件に照らして判断し、委員会が承認します。日本経済新聞の報道によれば、国家サイバー統括室の幹部は「個別の企業からの要請を受け付ける仕組みはない」と説明しています。
ただし、無害化の要件は「人の生命、身体又は財産に対する重大な危害」で、基幹インフラへの攻撃に限っていません。基幹インフラ事業者でない企業の被害でも、要件にあたるかどうかが判断の対象になりうる、という作りです。GMO の要請は、この線引きを最初に問う形になりました。
🧾 2. 何が起きたか
2-1. 経過
GMO インターネットグループと GMO インターネットの公表文から、経過を並べます。
| 日時 | できごと |
|---|---|
| 10月19日 | 利用者の問い合わせを受けて調査を開始 |
| 10月20日 | 一部の利用者のサーバー環境に、第三者による不正なプログラムが設置されていることを確認。新規申し込みとコントロールパネルを停止 |
| 10月21日 4:00 | 全プランのサーバーを順次停止。第1報。同日、脅迫メールを受信(約 80 億円の要求) |
| 10月22日 | 警察に相談 |
| 10月23日 | 影響の可能性があるサーバーは 26,739 件(確認された件数ではない)と公表 |
| 10月24日 | 見舞金・損失補償・代替サービスを決定。能動的サイバー防御の適用を政府関係機関に要請 |
| 10月25〜26日 | 利用者の端末を預かり、グループのセキュリティ部門が解析を開始 |
| 10月27日 12:30 | 攻撃者とみられる者が、同社と利用者に関する情報と称するものを公開したことを確認 |
| 10月27日 19:10 | 第12報。特別見舞金と懸賞金の制度を公表 |
| 10月28日 4:00 頃 | 攻撃者の情報公開サイト(ミラーを含む)のドメインが停止されたことを確認(第13報) |
| 10月28日 12:00 | 懸賞金の専用サイトを開設。6 時間で 113 件の情報提供(第14報) |
| 10月29日 12:40 | グループのホワイトハッカーチームが、犯人の特定につながると考えられる情報を入手し、同日中に警察と関係各所へ提出すると公表(第15報) |
| 10月29〜30日 | 情報提供は累計 321 件(29日 18:00)、428 件(30日 18:00)。平日 18 時に件数を更新(第16報) |
| 10月30日 15:30 | 見舞金の受け取り手続きと代替サービスについて、契約者への直接の連絡を開始 |
10月24日の開示では、調査の結果「本サービスのシステムにセキュリティ上の問題が存在し」、不正なアクセスと、利用者の情報が外部に持ち出された事実を確認したとしています。侵入の経路は公表されていません。影響の可能性がある情報は「サーバー内に保存されていた情報(取引ツール等に保存された取引口座のログイン情報等を含みます)」で、同社はクレジットカード情報を含む決済情報をこのサービスのサーバー上で保持していないと書いています。
2-2. 補償と支援
GMO が公表した利用者への対応をまとめます。
| 対応 | 中身 | 案内の期限 |
|---|---|---|
| 見舞金 | 現在の全利用者に一律 5,000 円(金銭的被害の有無を問わない) | 10月30日に受け取り手続きの連絡を開始 |
| 損失の補償 | 不正取引と認めた取引の実現損失(差損・手数料等)。相場変動による損失や逸失利益は対象外 | 11月6日までに申請方法 |
| 代替サービス | 現行の基盤は再開せず、独立したクラウド基盤の代替サービスへ。乗り換え後 6 か月無償 | 10月30日に連絡を開始 |
| 特別見舞金 | 公開された情報に本人の情報が含まれると同社が確認した場合、情報の区分ごとに 1 万〜2.5 万円(上限 300 万円) | 確認後に個別連絡 |
| PC の提供 | ランサムウェアの被害にあった利用者に、同等性能の新しい PC | 窓口へ申し出 |
| 懸賞金 | 犯人の特定・検挙と事件の解明につながる情報に、総額 100 万米ドル(参考換算 約 1 億 5,000 万円)を報奨金の上限 | 10月28日 12:00 から専用サイトで受付。30日 18:00 までに 428 件 |
株式市場の反応も大きく、日本経済新聞によれば、GMO インターネットグループの株価は 10月26日に前週末比 16% 安の 3,179 円で取引を終えました。
2-3. 攻撃者の要求と脅迫
10月24日の開示によれば、同社は攻撃者とみられる者から金銭の要求を受け、応じなければ、利用者の取引口座への不正操作の継続、サービスと接続した利用者の PC に関する情報の公開とランサムウェア攻撃、同社のシステムに関する情報の公開に及ぶ、という連絡を受けていました。同社は「攻撃者からの要求には応じません」とし、理由を「要求に応じても、取得された情報の削除や不正利用の防止が保証されるものではないため」と説明しています。
10月27日には、予告されていた正午を前に、利用者に PC のバックアップをとったうえでネットワークを切り、電源を落とすよう呼びかけました。12時30分に情報と称するものの公開を確認し、ランサムウェア攻撃は 13時55分の時点で確認されていないとしています。同社は、公開された情報と称するものにアクセスしたり、拡散したりしないよう求め、そのサイトにアクセスした人の情報は攻撃者に取得されていることを確認したと書いています。
翌 10月28日の午前 4 時頃、同社は関係事業者などと連携した結果、情報が掲載されていたサイト(ミラーサイトを含む)のドメインが停止されたことを確認しました(第13報)。新しいサイトが立ち上がれば直ちにテイクダウンに動くとし、掲載された情報の悪質な投稿・転載・拡散には刑事告訴を含む法的措置をとると警告しています。同日夕方の第14報では、X 上の関連する投稿に累計 20 件の警告連絡をしたと報告しました。
予告されていたランサムウェア攻撃については、第14報が「現時点での調査では、お預かりした端末の解析では、マルウェアの感染やランサムウェア攻撃の痕跡は確認されておりません」と書いています。解析は続いており、PC を再び使うときは、事前のセキュリティスキャンとバックアップを求めています。
2-4. 政府側の動き
政府は、GMO の要請への対応を、10月31日の時点で公式には発表していません。一方、政府全体の動きとしては、10月26日に首相官邸で第 1 回の「サイバーセキュリティに関する関係閣僚会議」が開かれました。首相官邸の発表によれば、総理は相次ぐ情報漏えいと二次被害を「深刻な事態」とし、被害企業の支援体制、情報の集約と発信の強化などを指示したうえで、次のように述べています。会議の発言は特定の企業名に触れていません。
実態を解明したサイバー攻撃に対しては、「アクセス・無害化措置」も含め、あらゆる「対処オプション」を戦略的に選択し、実行いたします。
総理は「来週中を目途に」政府の『緊急対策パッケージ』を取りまとめるとも述べており、11月の第 1 週が次の節目になります。
報道ベースの受け止めもあります。日本経済新聞(10月24日)は、政府高官の「防御のための支援はする。無害化につながるかは解析を進めなければいけない」という発言と、サイバー対策を担う高官の「まだ発動する事態ではないと判断している」という見方を伝えています。また、国家サイバー統括室の幹部は、無害化を公表することは「攻撃相手に手の内を明かすことになる」と述べたと報じています。措置がとられたとしても、すぐに公表されるとは限らないということです。
🌐 3. 社会的影響
3-1. 金融資産を直接狙う攻撃
GMO は具申の文書で、今回の攻撃を「一般国民の取引口座(金融資産)を標的とした不正操作・資産毀損」と表現しています。攻撃者は、国内外の 70 を超える証券会社・FX 会社などの取引口座への不正操作の継続を脅迫の材料にしていました(GMO の開示)。
ここで効いているのは、取引口座のログイン情報が、利用者の取引ツールとともにクラウド上のデスクトップに保存されていたという構図です。1 つの事業者の基盤が破られると、その上に置かれた多数の金融機関の口座に被害が広がります。GMO が主要な取引所・証券各社に、このサービス経由のアクセスの遮断やセッションの強制切断、不正取引の監視を要請したのは、被害が事業者をまたぐからです。
3-2. 脅迫型の情報公開と二次被害
もう一つの影響は、盗んだ情報の公開を交渉の材料にする手口です。公開された情報は、本人へのフィッシングや詐欺に使われるおそれがあります。GMO は、本件に便乗した同社や関係機関を装うメール・SMS・電話への注意を呼びかけ、「被害金を取り戻す」などとして費用を求める連絡には応じないよう求めています。公開された情報を転載・再投稿する行為は、被害を広げる側に回ることになります。
3-3. 法の初適用が持つ意味
GMO の要請は、施行から 1 か月足らずの制度に、具体的な問いを投げかけました。
基幹インフラ以外"] G --> Q1["要件にあたるか
財産に重大な危害
緊急の必要"] G --> Q2["誰が判断するか
執行官と
独立機関"] G --> Q3["何をするか
攻撃基盤の
停止・削除"] Q1 --> A["措置は国の判断
企業は情報を
提供する側"] Q2 --> A Q3 --> A
報道では、制度は被害の未然防止を目的としているため、被害が起きた後の適用には法解釈の課題があるとの指摘や、要請を公表したことで攻撃者が警戒し、効果が損なわれうるとの見方も紹介されています。一方で、警職法の要件は「財産」への危害を含み、被害の拡大を防ぐための措置も想定しています。どちらの見方をとるにせよ、判断するのは国で、企業ができるのは、持っているログや侵害の情報を捜査機関に渡すことです。GMO も、保有する全ログと侵害情報の提供を惜しまないと書き、10月29日には、グループのホワイトハッカーチームが独自の調査で得た、犯人の特定につながると考えられる情報を警察と関係各所に提出すると公表しました(第15報)。懸賞金の窓口に寄せられた情報も、同社が確認・精査しています。
独立機関による承認と、国会への報告がある仕組みは、捜査機関がネットワーク越しに他人のコンピューターに手を入れる権限に歯止めをかけるためのものです。民間が国に「無害化してほしい」と公に頼めるようになったいま、その歯止めが実際にどう働くかが、今後の運用で問われます。
⏳ 4. 放置するとどうなるか
今回の事案そのものが、放置の帰結を示しています。GMO の公表文によれば、攻撃者は 10月21日に要求を送り、要求に応じない場合の行為を予告し、10月27日にその一部(情報と称するものの公開)を実行しました。利用者の側で放置すると、次のことが起こりえます。
| 放置したもの | 起こりうること |
|---|---|
| 取引口座のパスワード | 不正な注文による口座残高の毀損が続く |
| ほかのサービスと同じパスワード | 使い回し先のサービスにも不正にログインされる |
| サービスに接続していた PC | 不正なプログラムが残っていれば、ランサムウェアや情報窃取の足場になる |
| 便乗した連絡 | 「補償」「被害回復」をかたるフィッシングや詐欺に引っかかる |
事業者の側では、侵入された基盤をそのまま再開すれば、同じ穴から再び入られるおそれがあります。GMO が現行の基盤を再開せず、「抜本的なセキュリティアーキテクチャの刷新」を選んだのはそのためです。
🛍️ 5. 同じ週のもう一件:グッドスマイルカンパニー
同じ週には、フィギュアなどを販売する グッドスマイルカンパニーの公式ショップでも不正アクセスが公表されました。10月23日の第 1 報の時点では、閲覧された可能性のあるカード情報はブランド・下 4 桁・有効期限で、カード番号の全桁とセキュリティコードは含まれないとしていました。ところが 10月28日 18時30分過ぎに、クレジットカード決済ページに不正なプログラムが設置されていたことが判明し、10月29日の第 3 報と 10月30日の第 4 報(第 3 報の一部修正)で内容が大きく変わりました。第 4 報の要点です。
| 項目 | 同社の公表(第4報) |
|---|---|
| 期間 | 2026年10月19日 15時過ぎころから 22日 23時前ころ、複数回の不正アクセス。決済ページの不正なプログラムは 21日 13時55分から 23日 7時(サイト閉鎖)まで |
| 原因 | システムの一部の脆弱性が悪用され、管理者権限が不正に取得されたと認識。近時報告された PHP の脆弱性ではない |
| カード情報のすべてが漏えいした可能性 | 上記の期間に決済ページへカード情報を入力した可能性のある 2,800 名。名義・番号の全 16 桁・有効期限・セキュリティコード |
| カード情報の一部が漏えいした可能性 | カードを登録したことのある会員。下 4 桁と有効期限で、重複を除き 402,466 枚 |
| 注文情報が漏えいした可能性 | 出荷処理が未了だった注文 7,774 件(5,356 名)のうち、最大 202 件。どの 202 件かを特定できないため、5,356 名全員に連絡 |
| 対応 | 脆弱性を改修し、システム間の接続情報一式を無効化・更新。個人情報保護委員会に報告。カード会社と決済代行会社への報告を進める |
認識のきっかけは、システム開発・保守の委託先からの連絡でした。外部の決済サービス経由の注文については、同社のサーバーにカード情報は保持されていないとしています。サイトの再開時期は、安全が確認でき次第案内するとしています。
決済ページに入力された番号をその場で抜き取る手口は、データベースに保存されていないカード情報まで盗めるのが特徴です。最初の告知で「全桁は含まれない」とされていたものが、調査の進展で覆ったことになります。
2 件は業種も手口も違いますが、狙われたのは、EC と金融取引にまつわる個人の情報という点で共通しています。どちらの会社も、漏れた情報を悪用した、会社や公的機関を名乗る連絡への注意を呼びかけています。グッドスマイルカンパニーは、カード情報の漏えいの連絡を受けた人に、身に覚えのない利用がないか確かめ、あればカード発行会社に連絡するよう求めています。
👥 6. 個人と社会インフラ:二層の対策
無害化は国の仕事ですが、利用者の手元に保存された鍵を守るのは、利用者自身と事業者の仕事です。層ごとに分けます。
| 層 | すること | 理由 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 該当サービスの利用者 | 取引に使っていない端末から、取引口座と取引ツールの認証情報を変更。ログイン中の全セッションを切断 | 保存されていたログイン情報が取得された可能性 | GMO 第3報 |
| 該当サービスの利用者 | 取引履歴と残高を確認。二要素認証を設定 | 不正な注文の早期発見と防止 | GMO 第3報 |
| 該当サービスの利用者 | 接続していた PC をフルスキャン。バックアップ | 不正なプログラムが残っている可能性 | GMO 第6報 |
| すべての個人 | 補償・被害回復をかたる連絡に応じない。公開された情報にアクセス・拡散しない | 二次被害と、アクセスした人の情報の取得 | GMO 第11報 |
| EC でカード情報の漏えいの連絡を受けた人 | カードの利用明細を確認し、身に覚えのない利用はカード発行会社へ | 決済ページで入力した番号が抜き取られた可能性 | グッドスマイルカンパニー 第4報 |
| すべての個人 | パスワードを使い回さない。使えるサービスではパスキーと二要素認証 | 1 つの漏えいが他のサービスに広がるのを防ぐ | 一般的な対策 |
| 事業者 | 侵入された基盤は作り直す。ログを保全し、警察・当局へ相談と報告 | 再侵入の防止と、捜査・無害化の判断材料 | GMO 第4報 |
| 金融機関・取引所 | 侵害されたサービス経由のアクセスの遮断と、不正取引の監視 | 被害が事業者をまたぐ | GMO 開示 |
| 基幹インフラ事業者 | インシデントを事業所管大臣と内閣総理大臣に報告 | 10月1日からの法的義務 | 強化法 第5条 |
| 国 | 要件に照らした措置の判断。独立機関の承認と国会報告 | 権限の行使に歯止めをかける | 警職法 第6条の2・強化法 |
利用者が GMO の補償を申請する際、同社は取引履歴を確認するための閲覧専用のパスワードの提示を求めることがあるとしていますが、それ以外のパスワードや暗証番号を尋ねることはないと明記しています。この区別を知っておくことも、便乗した詐欺への備えになります。
🔭 7. 今後
| 時期 | できごと | 確かめること |
|---|---|---|
| 10月28日から | GMO の懸賞金の受付(平日 18 時に件数を更新) | 提出された情報による捜査の進展 |
| 10月30日から | 見舞金の受け取り手続きと代替サービスの、契約者への直接連絡 | 案内の中身と、便乗メールとの見分け |
| 11月6日まで | 損失補償の申請方法の案内 | 補償の範囲 |
| 11月第 1 週(目途) | 政府の『緊急対策パッケージ』 | 被害企業の支援と、無害化措置を含む対処の方針 |
| 時期未定 | GMO の要請に対する政府の判断 | 無害化措置がとられたか、委員会の承認・報告 |
| 2027年11月22日まで | 通信情報の利用の施行 | 国外が絡む攻撃の分析の始まり |
サイバー通信情報監理委員会は、無害化措置の承認の求めや通知の件数などを含め、所掌事務の処理状況を国会に報告し、その概要を公表することになっています。今回の要請がどう扱われたかは、その報告で初めて見えてくる可能性があります。
🔧 技術者の所感
この欄は筆者の意見です。まず事実から。GMO の公表文によれば、今回影響の可能性がある情報は、利用者がクラウド上のデスクトップに保存していた取引口座のログイン情報などでした。国の無害化措置は、攻撃に使われているサーバーなどへの対処で、10月1日から警察に権限があります。ただし、措置をとるかは国が要件に照らして判断し、企業に申請の手続きはありません。
筆者が自分の机に引き寄せて考えたのは、「鍵をどこに置いているか」です。電子工作では、ESP32 のファームウェアに Wi-Fi のパスワードや API キーを書き込んだまま、試作機を机に転がしておくことがよくあります。Raspberry Pi の設定ファイルにトークンを平文で置くこともあります。手元の 1 台なら被害は小さいのですが、同じ置き方をした数万台が 1 つの基盤に並んでいたらどうなるか。今回の構図は、それを取引口座で起こしたものだと受け止めました。便利さのために鍵を 1 か所に集めた設計は、その 1 か所が破られたときに、全部を同時に失います。
もう一つ印象に残ったのは、予告された正午の前に GMO が出した「ネットワークを切断し、電源を落とし、コードを抜いてください」という呼びかけです。国の新しい権限が話題になる一方で、最後に効くのは物理的に切り離すという、いちばん古い防御でした。筆者は、能動的サイバー防御を「国が全部守ってくれる仕組み」ではなく、攻撃のインフラ側を国が、手元の鍵と端末を利用者と事業者が受け持つ分業だと考えています。分業の片側が動き出したいま、もう片側の手元の整理を、自分の作業環境から始めておきたいと思います。
✅ まとめ
- GMO インターネットグループは 10月24日、お名前.com デスクトップクラウドへの不正アクセスを受けて、能動的サイバー防御の適用を政府関係機関に要請した。同社はこれを「発動第1号」の事案と位置づけている
- 能動的サイバー防御は、サイバー対処能力強化法と整備法の総称。2026年10月1日に、基幹インフラの報告義務などの官民連携と、警察・自衛隊のアクセス・無害化措置が施行された。通信情報の利用は 2027年11月22日までの政令で定める日に施行される
- 無害化は、警察庁長官が指名した執行官が、生命・身体・財産への重大な危害を防ぐ緊急の必要があるときに行う。原則として独立機関の事前承認が要り、国外のサーバーなら外務大臣と協議する。民間企業が申請する手続きはない
- GMO は全利用者への一律 5,000 円の見舞金、不正取引の実現損失の補償、代替サービスの 6 か月無償化、情報が公開された利用者への特別見舞金、懸賞金を公表した。攻撃者の要求には応じない方針。10月28日には情報公開サイトのドメインの停止を確認し、29日には犯人の特定につながると考えられる情報を警察などに提出すると公表、30日に見舞金と代替サービスの手続きの連絡を始めた
- 政府は 10月26日に関係閣僚会議を開き、総理が無害化措置を含むあらゆる対処の選択肢をとると述べた。GMO の要請への判断は、10月31日の時点で公表されていない
- 個人は、該当する場合は認証情報の変更・セッションの切断・二要素認証・PC の検査を行い、補償をかたる連絡や公開された情報には近づかない。事業者と国は、基盤の作り直し、ログの提供、要件に照らした判断と歯止めを受け持つ
この記事で、能動的サイバー防御の施行済みの部分と未施行の部分、無害化の手順と歯止め、今回の事案の経過を整理しました。次の一手は、政府の判断と、サイバー通信情報監理委員会の報告が出たときに、要件・承認・公表の 3 点で運用を確かめることです。手元では、自分の PC や試作機に置いている鍵の場所を、一度棚卸ししてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 能動的サイバー防御とは何ですか?
A. 2025年5月に成立したサイバー対処能力強化法と同整備法で実現される仕組みの総称です。基幹インフラ事業者の報告などの官民連携、国外が絡む通信情報の利用、警察と自衛隊による攻撃サーバーなどへのアクセス・無害化措置の 3 本の柱からなります。
Q. 2026年10月1日に何が施行されたのですか?
A. 基幹インフラ事業者のインシデント報告義務、情報共有の協議会、国からの情報提供といった官民連携の仕組みと、警察官職務執行法第6条の2などによるアクセス・無害化措置です。独立機関のサイバー通信情報監理委員会は 2026年4月1日に設置済みです。通信情報の利用は未施行で、2027年11月22日までの政令で定める日に施行されます。
Q. 民間企業は国に無害化を求めることができますか?
A. 法律に、企業が無害化を申請する手続きはありません。措置をとるかどうかは、警察庁長官が指名した執行官が法律の要件に照らして判断し、原則として独立機関の承認を得て行います。企業ができるのは、被害の情報やログを捜査機関などに提供することです。
Q. GMO の要請で、国は無害化措置をとったのですか?
A. 2026年10月31日の時点で、政府が措置をとったという公式の発表はありません。10月26日の関係閣僚会議で、総理は「実態を解明したサイバー攻撃」には無害化措置も含めて対処すると述べましたが、GMO の件には触れていません。報道によれば、政府高官は「防御のための支援はする。無害化につながるかは解析を進めなければいけない」と述べています。国家サイバー統括室の幹部は、無害化の公表は攻撃者に手の内を明かすことになるとも述べており、措置がとられてもすぐに公表されるとは限りません。
Q. お名前.com デスクトップクラウドを使っていた場合、何をすればよいですか?
A. GMO の案内では、取引に使っていない端末から取引口座と取引ツールの認証情報を変更し、ログイン中のセッションを切断し、取引履歴と残高を確認し、二要素認証を設定することが求められています。接続していた PC のフルスキャンとバックアップも求められています。同社がパスワードや認証コードを尋ねることはないとしているので、それを求める連絡には応じないでください。
Q. グッドスマイルカンパニーの件は GMO の件と関係がありますか?
A. 両社の公表文に、2 件の関係は書かれていません。グッドスマイルカンパニーは、公式ショップへの不正アクセスで管理者権限が取得され、10月21日 13時55分から 23日 7時まで決済ページに不正なプログラムが設置されていたと公表しました(10月30日の第 4 報)。この間にカード情報を入力した可能性のある 2,800 名は、番号の全桁とセキュリティコードを含むカード情報が漏えいした可能性があります。原因の脆弱性は、近時報告された PHP の脆弱性ではないとしています。
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