作成するニキシー管時計の回路仕様と設計
今回作成する、卓上ニキシー時計の仕様を決めていきます。
仕様決定項目としては
- 使用するMCUとか付随機能
- ニキシー管のドライブ方式
- 昇圧回路の仕様
これらを踏まえて回路設計に反映しました。
使用するMCUと付随機能
今回使用するMCUはネットワークに接続したいという思いもありESP32 を使用します。
GPIOピンにはだいぶ余裕が出てしまうのですが、機能とコストから選択をしました。
ESP32はインターネット接続できるので、起動時にNTPから時刻を取得、自動でRTCへ設定します。 起動時のみネット接続することで消費電力を抑えることもできます。
ほとんどの時間はRTCから取得するようにします。
また、今後の拡張の話ではありますが、ブラウザでのwifi接続先設定機能であったり、時刻だけでなく日付も表示させたりなどを付けたいと思っています。
ニキシー管のドライブ方式
表示方式には「ダイナミック点灯方式」と「スタティック点灯方式」があります。
-
ダイナミック点灯方式
表示器を1つずつ順に高速で点灯させ、視覚的に全点灯しているように見せる 方式。省電力かつピン数削減が可能。 1つの表示器が点灯しているときに、ほかの表示器は消灯しています。ダイナミック点灯の仕組み
-
スタティック点灯方式
それぞれの表示器に独自に点灯指令を入力しなければならないので、必然的に入力ピンが多く必要になってしまいます。
そして常にすべての表示器が常に点灯しているので、消費電力が大きくなってしまいます。全表示器を常時同時点灯。
回路が単純でちらつきが無く寿命が長いとされます。
スタティック点灯の仕組み
→ 今回はこちらを採用。
スタティック点灯回路作成
ニキシー管を点灯させるためのロシア製IC「K155ID1」を用います。
1つのニキシー管に対してICを一つずつ使用していくので、ESP32では出力ピンが足りません。
各ニキシー管にICを1個ずつ割り当てる必要があり、出力ピンが足りないため、I2C接続のIOエキスパンダー「MCP23017」を併用します。
ニキシー管ドライブICの出力は4本の入力信号によって制御されます。
以下に示す表の入力と出力の関係によって任意の数字をニキシー管に表示させることが可能となります。

K155ID1ピンアサイン
この表の通りにIOエキスパンダーから信号を出力することで、ニキシー管から任意の数字を表示させることができます。
MCP23017の使い方はこちらの記事で解説しています。
昇圧回路の仕様
ニキシー管を点灯させるためには150V~200V程度の電圧が必要になります。
そのため、基板内部で高電圧を生成する回路を設計していきます。
「ニキシー管 回路」 とかで検索すると、DC/DCコンバータ制御用IC「NJM2360AD」を使用した昇圧回路が多くみられると思います。
しかし、この昇圧回路では損失が大きすぎるため、コッククロフトウォルトン回路 と手元にあったDC/DCコンバーター「NJM2374」を併用させて効率の向上を図ります。
コッククロフトウォルトン回路はダイオードとコンデンサで構成されており、入力電圧をコッククロフトウォルトンの段数倍の電圧を出力します。
ということは… 理論上いくらでも昇圧することが可能となります!!
以下がそれらを踏まえて設計した、ニキシー管用の高電圧を出力する回路です。

コッククロフトウォルトン昇圧回路図
今回は、NJM2374から30Vを出力させ、6段のコッククロフトウォルトンで180Vの出力を目指していきます!
ニキシー管時計の基板設計と発注
前述したような回路を組み込み、kicadによって基板の設計を行いました。
設計したの基板が以下のような感じになります。

ニキシー管時計回路図
3Dにするとこんな感じ。

ニキシー管時計回路図(3D)
いつもよりだいぶ細かくなってしまったなという感想。
そして、設計の段階から
「これはんだ付けするの、めちゃくちゃ大変じゃないか…???」
という、恐怖でいっぱいでした。
配線もめちゃくちゃ大変で、ICの位置が不格好になってしまったのが悔やまれます。
上記の回路をもとにKiCADで設計し、JLCPCB様に発注しました。今回は黒色基板で製作しています。
基板の到着と製作
JLCPCBに発注してから一週間後、基板が到着しました!!

実際の基板
黒色の基板は初めて発注しましたが、いい色が出てて、白のシルクがとてもよく映えていいですね。
部品の実装
到着した基板に部品を実装。狭い箇所に多くの部品があり、手はんだ作業は大変でした。
基板設計時から作業が大変そうで恐怖を感じていた部分がこちらです。


狭いところに大量のトランジスタと抵抗。そして、コッククロフトウォルトン部のダイオードとコンデンサの実装部分…
いつか、部品実装までしてくれるアセンブリサービスを依頼してみたいです。
頑張って、はんだ付けした結果がこちら。
部品実装後の基板
ニキシー管はとても高価で貴重なものなので、通電確認、プログラムが正常に動いていることを確認してから取り付けることにします。
そして、出力電圧を確認!!!
昇圧回路の電圧確認
200Vの出力を確認できました。想定より少し多いですが仕様の範囲内に収まりました。
昇圧回路には200Vが流れており、感電リスクがあります。作業には十分注意してください。
ニキシー管時計の点灯と完成
信号等確認できましたので、ニキシー管を実際に取り付けて点灯プログラムを書き込み、点灯させてみました。
点灯試験
とても綺麗でカッコよくて素敵に点灯してくれました。
点灯も確認できましたので、高電圧基板を無防備で置いておくのは危険なので、3Dプリンタで筐体を作りました。
完成品
そして、これが実際に時計が時刻を刻んでいる動画です。
とても美しく、レトロな橙光がゆっくりと時を刻む様子がお分かりになると思います。
まとめ
今回は、ESP32を用いたニキシー管時計の製作について、構想から回路設計、基板発注、実装、完成までの流れをご紹介しました。
- ESP32のNTP機能とRTCを活用し、常に正確な時刻を表示
- MCP23017とK155ID1を用いたスタティック点灯方式による美しい表示
- NJM2374+コッククロフトウォルトン回路による安定した昇圧設計
- 3Dプリンタで仕上げた筐体によって、レトロ×モダンな時計が完成!
今回の製作を通じて、ESP32の応用力、I2C通信の拡張性、高電圧回路の安全設計
といったテーマを実践できました。
今後は以下の機能追加も検討中です:
- Wi-Fi経由での時刻修正や設定UIの実装
- 日付や曜日の切替表示
- 温湿度センサとの連携による表示機能追加
ソースコードやKiCadの設計データについては、後日GitHubなどで公開予定です。
電子工作は、知識だけでなく「手を動かす」 ことが何よりの学びになります。
皆さんの製作の参考になれば嬉しいです!
それでは、良き電子工作ライフを!
See You…