はじめに

部品箱の引き出しに、何気なく転がっている小さな黒い部品。今回はその中から、これしかないという1本を取り出します。

🗓️ IC実験室 #5

部品を一個ずつ取り出して、データシートを最初から最後まで読んで、回路を組んで、オシロスコープを当てる——それだけをやる連載です。収録記事の一覧は 連載ページ へ。

秋月電子の2SC1815L-Y-T92 20個入りパックと、ブレッドボードで動作中の回路

今回の主役、UTC 2SC1815L-Y-T92。秋月電子の20個入りパックは¥100(通販コード106475)。袋の型番末尾に付いた「-K」は梱包形態の記号で、バルク(バラ)を意味します——後述の「型番の読み方」と現物を突き合わせられます

2SC1815 ——日本の電子工作で、おそらくもっとも多く挿されてきたNPNトランジスタです。ラジオの製作記事にも、アンプの作例にも、学校の実習にも、当たり前のように登場してきました。オリジナルの東芝製はすでに生産を終えていますが、セカンドソース品が今も普通に流通していて、秋月電子で20個100円で買えます。

つまり、1個あたり5円。 この5円の石1本で、電子回路の三大動作であるスイッチ・増幅・発振を全部やります。

📝 この記事でやること

  • 2SC1815のデータシートを読み解く(ピン配置・絶対最大定格・hFEランク・セカンドソース間の差)
  • 実験1:スイッチとして使う(LED駆動・ベース抵抗の設計・飽和とは何か・オシロで見るON/OFFの非対称)
  • 実験2:hFEを実測して、Yランクの規格値に入るか確かめる
  • 実験3:2石で非安定マルチバイブレータ(トランジスタだけのLチカ)
  • 実験4:エミッタ接地増幅回路を組んで、利得とクリッピングをオシロで見る
  • 2N3904・BC547などの海外定番との比較と、使い分け
flowchart LR A["実験1
スイッチ
(飽和領域)"] --> B["実験2
hFE 実測
(活性領域)"] B --> C["実験3
2石マルチバイブレータ
(スイッチ+充放電で発振)"] C --> D["実験4
エミッタ接地増幅
(活性領域で信号を扱う)"]
💡 対象読者

ブレッドボードでLEDを光らせたことがある方を想定しています。トランジスタを触ったことがなくても読めるように、NPNの基本動作から説明します。 テスターは必須、オシロスコープは「あればもっと楽しい」という位置づけです。


🔎 2SC1815とは — 日本の電子工作の共通言語

東芝の定番から、セカンドソースの時代へ

2SC1815は、もともと東芝が製造していた小信号NPNトランジスタです。オーディオ回路のドライバ段から、汎用スイッチング、発振回路まで、用途を選ばず使える性格の良さで、日本の作例記事における事実上の標準部品になりました。相補(コンプリメンタリ)のPNP品が 2SA1015 で、この2つはセットで語られます。

その東芝版は、現在は生産を終了しています。いま秋月電子などで買える2SC1815は、他社が同じ型名・同じ規格で作っている「セカンドソース品」 です。

秋月電子で買える2SC1815は4種類ある

「2SC1815ください」と言っても、実は選択肢が4つあります。違うのは主に hFE ランク(電流増幅率の選別区分)で、値段はどれも同じです。

通販コード 型番 メーカー hFEランク 商品ページの hFE 表記 価格
106475 2SC1815L-Y-T92 UTC(Unisonic) Y 120〜240 20個 ¥100
106477 2SC1815L-GR-T92 UTC(Unisonic) GR 200〜400 20個 ¥100
113491 2SC1815L-BL-T92 UTC(Unisonic) BL 350〜700 20個 ¥100
117089 2SC1815 JCET(長電科技) 型番に記号なし 200〜400(GRの範囲) 20個 ¥100

この記事で使うのは、いちばん標準的な 2SC1815L-Y-T92(通販コード106475) です。

いずれも1000個入りの袋(¥3,000前後)も選べます。価格・在庫・仕様表記は2026年8月時点のもので、変動します。

⚠️ JCET版だけは許容損失が違う

上の表で価格もランクも横並びに見えますが、JCET版(117089)は許容損失が400mWで、UTC版の625mWとは異なります(各社データシートの記載)。ランクの数字(200〜400)はUTCのGRと同じ範囲ですが、型番にランク記号は付きません。 詳しくは後述の「同じ2SC1815でもメーカーが違えば規格表も違う」で比較します。

✅ どれを買えばいい?——用途別の選び方

結論から言うと、最初の1パックは Y(106475)が無難です。 理由は下の表のとおりです。

ランク hFE 向いている用途 ひとこと
Y 120〜240 スイッチング全般・汎用・この記事の実験1〜4すべて 中庸。作例記事で「2SC1815」と書かれていたらまずこれで通る
GR 200〜400 増幅段でもう少し利得が欲しいとき 実験4のエミッタ接地増幅で、Yとの違いを見比べると面白い
BL 350〜700 小信号の初段など、とにかく利得が欲しいとき ばらつき幅(350〜700)も大きい。ここを実測で確かめるのが楽しい

スイッチング用途ならランクはどれでも構いません。 実験1のように「必要量より大幅に多いベース電流を流して確実に飽和させる」設計をするため、hFEの実力値に依存しないからです(詳しくは実験1で)。

いっぽう増幅回路(実験4)では、ランクの違いが挙動に出ます。 GR や BL も1パック買っておいて、同じ回路で差し替えて比べると、この記事の内容が一段深くなります。

そして——自分が買った石が本当にその範囲に入っているかは、測れば分かります。 それをやるのが 実験2 です。パッケージに印字された1〜2文字が正しいかどうかを、自分のテスターで確かめる。地味ですが、これが「データシートと現物を突き合わせる」ということそのものです。

型番の読み方:2SC1815L-Y-T92

商品名に並ぶ長い型番。一見おまじないですが、区切って読むと全部意味があります。

  2SC1815 L -Y -T92 -B
     |    |  |   |   |
     |    |  |   |   +---- -B      : 梱包形態(-B=テープ箱詰め / -K=バルク)
     |    |  |   +-------- -T92    : パッケージ(TO-92)
     |    |  +------------ -Y      : hFEランク(O / Y / GR / BL)
     |    +--------------- L       : UTCの表記(L / G)
     +-------------------- 2SC1815 : 型名(JEITA登録番号)

前半「2SC1815」——日本の型名規約

部分 意味
2S JEITA(旧EIAJ)の半導体型名。トランジスタ(3端子・2接合)を表す
C NPN形の高周波用。A=PNP高周波/B=PNP低周波/C=NPN高周波/D=NPN低周波
1815 登録番号(通し番号)。素性を表す意味は無く、登録順に振られた番号

ここまでが世界共通で通じる「型名」 です。だから東芝製でもUTC製でもJCET製でも、頭は同じ「2SC1815」になります。

後半「L-Y-T92」——メーカーごとの識別子

部分 意味 根拠
L UTCの型番表記。データシートの発注情報(ORDERING INFORMATION)で 2SC1815L-…Lead Free(鉛フリー)欄、2SC1815G-…Halogen Free 欄に並んでいる UTCデータシート記載
Y hFEランク。 ここが O / Y / GR / BL のどれかで電流増幅率の範囲が変わる。本体にもこの記号が印字される UTC・東芝・JCET 各データシート
T92 パッケージ形状。TO-92(3本足のスルーホール樹脂パッケージ) UTCデータシート発注情報に “TO-92” と記載
-B / -K 梱包形態。-B = Tape Box(テープ・箱詰め)/-K = Bulk(バラ)。中身の性能は同じ UTCデータシート発注情報

秋月電子の商品名は 2SC1815L-Y-T92 までで、梱包サフィックスは付いていません。

💡 型番から読めないこと

断定できるのはデータシートに書いてある範囲までです。たとえば L については、UTCのデータシートが Lead Free 欄に置いていることまでは読み取れますが、「Lは必ずLead Freeの略である」とメーカーが定義文として書いているわけではありません。 型番の解読は「そのメーカーのデータシートがそう並べている」以上には踏み込まないのが安全です。

💡 ワード解説:セカンドソース

オリジナルのメーカーとは別の会社が、同じ型名・同等の規格で製造する互換品のことです。オリジナルが生産終了しても部品が入手し続けられるのは、セカンドソースがあるおかげです。ただし後述するように、「同じ型名なら規格表まで同じ」とは限りません。

そもそもNPNトランジスタとは:小さな電流で大きな電流を操る

トランジスタを触ったことがない方のために、ここで基本動作を押さえます。

NPNトランジスタは、N形・P形・N形の半導体を3層に重ねた構造をしています。3本の足はそれぞれ次の役割です。

端子 記号 役割
ベース B 制御端子。ここに小さな電流を流し込むと動作する
コレクタ C 電流の入口。負荷(LEDやスピーカー)をつなぐ側
エミッタ E 電流の出口。NPNではGND側につなぐ

動作の核心は、次の1行です。

I_C = h_{FE} \times I_B

ベースに流した電流の h_{FE} 倍の電流が、コレクタからエミッタへ流れる。 h_{FE} (直流電流増幅率)は2SC1815のYランクなら120〜240なので、ベースに0.01mA流せば、コレクタには1.2〜2.4mA流れる計算です。「小さな電流で大きな電流を操る」——これがトランジスタが増幅素子と呼ばれる理由です。

ただし、この式が成り立つのは特定の条件下だけです。トランジスタには3つの動作領域があります。

flowchart TD A["ベース電流 I_B を
0 から増やしていく"] --> B["遮断領域(カットオフ)
V_BE が約0.6Vに届かない
I_C ≒ 0 → スイッチOFF"] B --> C["活性領域(アクティブ)
I_C = hFE × I_B が成立
→ 増幅回路はここを使う"] C --> D["飽和領域(サチュレーション)
I_C はもう増えない
V_CE が 0.1V 前後まで落ちる
→ スイッチONはここを使う"]
動作領域 状態 使いどころ
遮断 ベース電流を流さない。コレクタ電流はほぼ0 スイッチのOFF
活性 IC = hFE × IB が成り立つ。VCE は負荷と電源で決まる 増幅・hFEの測定(実験2・実験4)
飽和 ベース電流を増やしてもコレクタ電流が増えない。VCE が最小になる スイッチのON(実験1・実験3)

同じ部品なのに、どの領域で使うかで設計の考え方がまるごと変わります。 この記事の実験1と実験4が別物に見えるのは、使っている領域が違うからです。

ピン配置:ここを間違えると動きません

まずは全体像から。3本の足がそれぞれ何にあたるのかを、実物の形と回路記号を並べて見てみます。

2SC1815の端子解説イラスト。TO-92パッケージの3本足に①エミッタ②コレクタ③ベースを振り、NPNトランジスタの回路記号を併記した図

平らな面(型番の印字面)を手前に見たときの並び。なお、この E・C・B は 2SC1815 の配置であって、TO-92 のトランジスタすべてに共通するわけではありません(足違いについては後述します)

TO-92パッケージの3本足は、平らな面(型番が印字されている側)を手前にして、左から E・C・B です。

    < 平らな面(型番が印字されている側)を手前にして見た図 >

              +-------------+
              |   2SC1815   |   <- 印字のある平らな面
              |     -Y      |
              +--+---+---+--+
                 |   |   |
                 1   2   3
                 E   C   B
                 |   |   |
                 |   |   +--- B : ベース(制御信号を入れる)
                 |   +------- C : コレクタ(電源側・負荷をつなぐ)
                 +----------- E : エミッタ(GND側・電流の出口)

丸い面(背面)から見ると左右が反転して B・C・E になります。ブレッドボードに挿すときは必ず平らな面の向きで確認してください。なお、本体に印字されている1〜2文字(この石なら「Y」)がhFEランクです。

⚠️ 海外の定番トランジスタとは足の順番が違う

TO-92は形が同じでも、メーカー・型番によって足の割り当てがバラバラです。回路図どおりに配線したのに動かない原因の上位はこれです。

型番 ピン1 ピン2 ピン3 出典
2SC1815(UTC / JCET) E C B UTC・JCET 各データシート
2N3904(Fairchild/onsemi) E B C 2N3904データシート
BC547B(例:Multicomp) C B E BC547Bデータシート

3種類とも並び順が違います。「TO-92だから同じ」は通用しません。 海外の回路図やチュートリアルを2SC1815で再現するときは、必ずピン配置を読み替えてください。

主要スペック(UTC 2SC1815L データシート)

ここからはデータシートに書いてある確定値です。実験で使う数字なので、ざっと目を通しておいてください。

絶対最大定格(TA = 25℃)

項目 記号 定格 意味
コレクタ・ベース間電圧 VCBO 60 V
コレクタ・エミッタ間電圧 VCEO 50 V 電源電圧の上限の目安
エミッタ・ベース間電圧 VEBO 5 V 逆方向にこれ以上かけない(実験3で効いてくる)
コレクタ電流 IC 150 mA これ以上流す用途には使えない
ベース電流 IB 50 mA
コレクタ損失 PD 625 mW VCE × IC の上限
接合部温度 TJ 150 ℃
熱抵抗(接合部〜ケース) θJC 80 ℃/W

電気的特性(TA = 25℃)

項目 記号 測定条件 MIN TYP MAX
コレクタ遮断電流 ICBO VCB=60V, IE=0 100 nA
エミッタ遮断電流 IEBO VEB=5V, IC=0 100 nA
コレクタ・エミッタ間飽和電圧 VCE(sat) IC=100mA, IB=10mA 0.1 V 0.25 V
ベース・エミッタ間飽和電圧 VBE(sat) IC=100mA, IB=10mA 1.0 V
直流電流増幅率 hFE1 VCE=6V, IC=2mA 70 700
直流電流増幅率(大電流側) hFE2 VCE=6V, IC=150mA 25
トランジション周波数 fT VCE=10V, IC=50mA 80 MHz
出力容量 Cob VCB=10V, f=1MHz 2.0 pF 3.0 pF

この表から読み取っておきたいのは、次の3点です。

📌 データシートから読み取る3つのポイント
  1. hFEには測定条件が必ず付いている。 「Yランクは120〜240」は V_{CE}=6\text{V},\ I_C=2\text{mA} での話です。同じ石でも I_C=150\text{mA} では最小25まで落ちます。電流を増やすとhFEは下がる、と覚えてください。
  2. VCE(sat) の測定条件は I_C=100\text{mA},\ I_B=10\text{mA} で、電流比にすると I_C / I_B = 10 です。これが後で出てくる「強制hFE」の考え方そのものです。
  3. 小電流域の VBE(on) は規定されていない。 設計で使う「ベース・エミッタ間は約0.6〜0.7V」は経験則であって、2SC1815のデータシートにある確定値ではありません。飽和させたときの上限として VBE(sat) = 1.0V が規定されているだけです。

hFEとは何か:ばらつくからこそ、ランクがある

スペック表で何度も出てきた hFE を、ここできちんと押さえます。この記事の実験1・実験2・実験4は、すべてこの数字が主役です。

hFE(直流電流増幅率)は、コレクタ電流とベース電流の比です。

h_{FE} = \frac{I_C}{I_B}

つまり、ベースに流し込んだ電流の何倍がコレクタに流れるかという倍率です。Yランク(hFE = 120〜240)の石なら、ベースに 0.01mA を流すとコレクタには 1.2〜2.4mA が流れます。

💡 「増幅率」だが、電圧の利得ではない

hFE は電流どうしの比です。「100倍の音になる」といった電圧利得とは別物で、電圧を増幅するにはコレクタに抵抗を入れて電流を電圧に変換する必要があります。コレクタ抵抗を入れて「電流の変化」を「電圧の変化」に置き換える——それをやるのが実験4のエミッタ接地増幅回路です。

問題は、この数字が個体ごとに大きくばらつくことです。

2SC1815のデータシートの規格は V_{CE}=6\text{V},\ I_C=2\text{mA}hFE = 70〜700。上限と下限で 10倍の開きがあります。同じ型番・同じ製造ラインでも、これだけ差が出るのが半導体プロセスの現実です。

そこでメーカーは、製造後に1個ずつ実測して、hFEの範囲ごとに選別してから出荷します。 これがランク分けです。「ばらつきを無くす」のではなく、「ばらついた結果を仕分けして売る」——ここが面白いところです。

💡 ワード解説:hFE と hfe は別物

データシートには添字の大小が違う2つが登場します。

記号 名前 中身
hFE(大文字添字) 直流電流増幅率 ある動作点での IC / IB そのもの。この記事のランクの話はすべてこちら
hfe(小文字添字) 小信号電流増幅率 動作点のまわりでの変化量の比 ΔIC / ΔIB。交流信号を扱う増幅回路の解析で使う

実例として、BC547Bのデータシートには hFE MIN 200hfe TYP 330(ともに I_C=2\text{mA} )が別項目で載っています。東芝版2SC1815のデータシートにも、hfe を含むhパラメータ(hie / hfe / hoe / hre)対 IC のグラフがランク別に掲載されています。

通常、両者は近い値になりますが、同じ数字ではありません。 ランク選別に使われているのは hFE のほうです。

hFEランク:印字の1〜2文字で性格が変わる

2SC1815は製造後の実測hFEで選別されていて、ランク記号が本体に印字されます。

ランク記号 hFE1 の範囲(VCE=6V, IC=2mA) 位置づけ
O 70〜140 いちばん低い。流通は少なめ
Y 120〜240 標準。汎用スイッチング・一般用途
GR 200〜400 増幅段でゲインが欲しいとき
BL 350〜700 高利得。小信号の初段など

範囲が隣同士で重なっている(Yの上限240とGRの下限200)のは、選別の境界がオーバーラップしているためです。

どのランクを買うかは前述の用途別ガイドのとおりですが、ひとつ補足しておくと、hFEが大きいほど回路が安定するわけではありません。 実験4のバイアス設計で、その理由がはっきりします。

同じ「2SC1815」でも、メーカーが違えば規格表も違う

ここが今回いちばん強調したい部分です。セカンドソースは「同じ型名の互換品」ですが、規格表まで同一ではありません。

項目 東芝(オリジナル) UTC 2SC1815L JCET 2SC1815
VCEO 50 V 50 V 50 V
IC 150 mA 150 mA 150 mA
コレクタ損失 400 mW 625 mW 400 mW
接合部温度 TJ 125 ℃ 150 ℃ 150 ℃
fT の測定条件 VCE=10V, IC=1mA VCE=10V, IC=50mA VCE=10V, IC=1mA
Cob(MAX) 3.5 pF 3.0 pF 3.5 pF
雑音指数 NF TYP 1 dB / MAX 10 dB 規定なし MAX 10 dB
ピン配置 E・C・B E・C・B E・C・B

コレクタ損失が400mWと625mWで1.5倍以上違います。 ピン配置や電圧・電流の定格は揃っているので差し替えて動きますが、発熱ギリギリまで攻めた設計をしていると、メーカーを変えた瞬間に定格オーバーになります。

fT(トランジション周波数)も、東芝とJCETは I_C=1\text{mA} 、UTCは I_C=50\text{mA} での規定です。同じ「80MHz以上」でも測っている条件が違うので、高周波で使うなら手元の石のメーカーのデータシートを見る必要があります。

✅ 実務的な結論

手元にある石のメーカーのデータシートを見ること。 「2SC1815 データシート」で検索して出てくる東芝版のPDFは、あなたが買った石の規格表とは限りません。秋月電子の商品ページには、その商品のメーカーのデータシートが直接リンクされています。


🔌 実験1:スイッチとして使う(LEDを駆動する)

最初はいちばん出番の多い使い方、スイッチです。

なぜトランジスタを挟むのか

「LEDくらいマイコンのピンから直接光らせればいい」と思うかもしれません。実際それで動きます。ただし、

  • Arduino UNO のI/Oピンは1本あたり20mA(絶対最大40mA) が上限
  • 複数本を同時に点灯させるとチップ全体の電流上限に引っかかる
  • リレー、モーター、ブザー、大電流のLEDテープは、そもそも直接駆動できない

「小さな制御信号で、大きな負荷をON/OFFする」——ここでトランジスタが必要になります。2SC1815ならコレクタ電流150mAまで扱えるので、I/Oピン直結の7倍以上の負荷を動かせます。

回路と部品

2SC1815をスイッチとして使いLEDを駆動する回路図

実験1の回路図。R1 がコレクタ側の電流制限抵抗(設計150Ω/実機は100Ω+47Ωの直列で147Ω)、R2 がベース抵抗(3.3kΩ)。Sig は Arduino の GPIO で、3.3V/0V の矩形波を入れる

部品 用途
トランジスタ 2SC1815L-Y-T92 主役
電流制限抵抗 RC 150 Ω(実機は100Ω+47Ω=147Ω) LEDの電流を決める
ベース抵抗 RB 3.3 kΩ ベース電流を決める
LED 赤・5mm(VF ≒ 2.0V と仮定) 負荷
電源 VCC 5 V(Arduino の5Vピン)
駆動信号 Sig 3.3V / 0V の矩形波(Arduino の GPIO) ベースを叩く

設計①:コレクタ電流を決める

まず流したい電流から決めます。LEDを20mA弱で光らせるとして、コレクタ側のループの電圧を配分します。

I_C = \frac{V_{CC} - V_F - V_{CE(sat)}}{R_C} I_C = \frac{5 - 2.0 - 0.1}{150} \approx 19.3\ \text{mA}

ここで使った V_{CE(sat)} = 0.1\text{V} はデータシートのTYP値です。19.3mAは 定格150mAに対して13% なので、余裕たっぷりです。

損失も確認しておきます。

P_C = V_{CE(sat)} \times I_C = 0.1 \times 0.0193 \approx 1.9\ \text{mW}

コレクタ損失の定格625mWに対して0.3%。飽和させて使うと発熱がほとんど無い——これがスイッチとしてトランジスタが優秀な理由です。

設計②:ベース抵抗を決める(強制hFEという考え方)

ここが最重要ポイントです。

hFEがYランクで120〜240なら、19.3mAを流すのに必要なベース電流は 19.3 / 120 = 0.16\ \text{mA} ——のはずです。が、スイッチではこの計算をしてはいけません。

理由は3つあります。

  1. hFEは個体でばらつく(Yランクでも120〜240、つまり2倍の幅がある)
  2. hFEは電流と温度で変わる(データシートでも I_C=2\text{mA}I_C=150\text{mA} で最小値が70と25に変わる)
  3. ぴったりの電流だと活性領域の端で動くことになり、 V_{CE} が下がりきらない(=発熱してLEDも暗い)

そこで、わざと必要量より大幅に多いベース電流を流し込んで、確実に飽和させます。 このとき実質的に使っている電流比を 強制hFE(forced hFE) と呼び、10〜20あたりに置くのが定石です。

h_{FE(forced)} = \frac{I_C}{I_B} = 10 \sim 20

データシートの V_{CE(sat)}I_C=100\text{mA},\ I_B=10\text{mA} 、つまり強制hFE = 10 の条件で規定されているのは、まさに 「飽和電圧を保証するにはこれだけ突っ込め」 という意味です。

ここで、ベースを何Vで叩くのかをはっきりさせます。

今回の駆動源は Arduino の GPIO で、出力は 3.3V / 0V です。5V ではありません。ベース抵抗にかかるのは、そこから VBE を引いた電圧です。

V_{R_B} = V_{drive} - V_{BE(sat)} = 3.3 - 0.9 = 2.4\ \text{V}

5V駆動なら 4.1V ですから、同じ抵抗値でもベース電流は6割弱まで減ります。 ベース抵抗は、駆動電圧とセットでしか決まりません。「作例に3.3kΩと書いてあったから3.3kΩ」では、駆動源を変えた瞬間に意味が変わります。

強制hFEを10〜20に収めるなら、必要な抵抗値はこうなります。

R_B = \frac{V_{drive} - V_{BE(sat)}}{I_B},\quad I_B = \frac{I_C}{h_{FE(forced)}}
狙う強制hFE 必要な IB RB(3.3V駆動) 参考:RB(5V駆動)
10(深い飽和) 1.93 mA 1.2 kΩ 2.1 kΩ
15 1.29 mA 1.9 kΩ 3.2 kΩ
20(浅め) 0.97 mA 2.5 kΩ 4.2 kΩ

この記事では、E24系列から 3.3kΩ を選びます。3.3V駆動でのベース電流と強制hFEは、

I_B = \frac{3.3 - 0.9}{3300} \approx 0.73\ \text{mA} \quad \Rightarrow \quad h_{FE(forced)} = \frac{19.3}{0.73} \approx 26

表の目安(10〜20)より浅い側です。それでも3.3kΩでよい理由が3つあります。

  1. VBE(sat) を0.9Vと重めに置いている。 実際のベース電圧はもっと低く、そのぶんベース電流は計算値より増えます(この差は後の実測ではっきり出ます)
  2. 強制hFE 26 は、この電流域では十分に深い。 データシートが強制hFE=10を要求しているのは IC=100mA という厳しい側の条件です。20mA弱の領域では実力hFEが150〜200あるので、26は実力値の1/6以下——飽和のために必要な量を大きく上回っています
  3. 5V駆動でもそのまま使える。 3.3kΩなら5V駆動時に強制hFE ≒ 15.6、3.3V駆動で ≒ 26。どちらでも飽和するので、駆動源を差し替えても組み直さずに済みます

3つめは地味ですが実用上ありがたい性質です。ベース抵抗を攻めて小さくすると、駆動電圧が下がったときに一気に飽和から外れます。

💡 V_BE を 0.9V としたのは?

前述のとおり、2SC1815のデータシートには小電流域の VBE(on) の規定がありません。 規定されているのは飽和時の VBE(sat) = MAX 1.0V です。深く飽和させた状態のベース電圧は0.7Vより高くなるため、ここでは間を取って0.9Vで計算しました。

なお、駆動電圧が低いほど、この見積もりの誤差が効いてきます。 3.3V駆動で 0.9V を 0.7V に置き換えると、ベース抵抗にかかる電圧は 2.4V → 2.6V と8%動きます(強制hFE=15狙いなら 1.9kΩ → 2.0kΩ)。5V駆動なら 4.1V → 4.3V で5%です。それでもこの用途では厳密さより「余裕を持って飽和させる」ほうが大事なので、切りのいい値を選んで先へ進みます。

組んで測る

ブレッドボードに組んだ2SC1815のLEDスイッチング回路

実験1の実装。電源も駆動信号もArduinoから取っている。左が赤色LED、中央がトランジスタ、その手前がベース抵抗

実際に組むと、机の上の都合が入ってきます。今回もそうでした。

項目 設計 実機
電源 VCC 5.00 V 4.60 V(Arduino の5Vピンをテスターで実測)
コレクタ抵抗 RC 150 Ω 147 Ω(150Ωの手持ちが無く、100Ω+47Ωの直列で代用)
駆動電圧 3.3 V 3.3 V / 0 V(設計どおり。Arduino の GPIO 出力)

USB給電のArduinoの5Vピンは、きっちり5.00Vではありません。電源電圧は「たぶん5V」で済ませず、測ってから計算に入れる。 実機の値で設計①の式を計算し直すと、こうなります。

I_C = \frac{4.60 - 2.065 - 0.067}{147} \approx 16.8\ \text{mA}

設計の19.3mAより2.5mAほど少なくなります。VF と VCE にはこのあと出てくる実測値を入れました。減ったぶんの内訳は、電源が5.00Vでなく4.60Vだったこと、RC が147Ωであること、LEDの VF が仮定より少し高かったこと——どれも「どの仮定が実物と違ったか」が名指しできる差です。

ではテスターで直流を測ります。設計値と実測がどれだけ一致するかが見どころです。

測定項目 設計値 実測
LEDの順方向電圧 VF 2.0 V(仮定) 2.065 V
コレクタ・エミッタ間電圧 VCE 0.1 V 67 mV
コレクタ電流 IC 19.3 mA 16.8 mA
ベース・エミッタ間電圧 VBE 0.9 V 0.75 V
ベース電流 IB 0.73 mA 0.83 mA
実効的な強制hFE 26 ≒ 20

コレクタ電流は、RC の両端電圧を測って割り算で出しています。実測は2.47Vだったので、

I_C = \frac{2.47}{147} \approx 16.8\ \text{mA}

テスターを電流計モードにして直列に挟んだ場合も17mAで、こちらとも一致しました。

この表から読めること

  • VCE = 67mV。 データシートのTYP 0.1V・MAX 0.25Vを下回っています。狙いどおり深く飽和しているという何よりの証拠です。このときのコレクタ損失は 0.067 \times 0.0168 \approx 1.1\ \text{mW} で、定格625mWの0.2%。触っても熱くありません
  • VBE は0.75Vで、設計で置いた0.9Vより低め。そのぶんベース抵抗にかかる電圧が増え、ベース電流は計算の0.73mAより多い0.83mAになりました。計算では (3.3 - 0.75) / 3300 \approx 0.77\ \text{mA} なので、抵抗の許容差やGPIOの実際の出力電圧を考えれば妥当な一致です
  • 実効的な強制hFEは約20。 設計時の見込み26より低い側に出て、結果として狙いの10〜20帯にちょうど収まりました。ベース電流が増え、コレクタ電流が減ったぶん、両方向から比が縮んだかたちです
  • LEDの VF は2.065V。 設計で仮定した2.0Vとほぼ同じでした。赤色LEDの「だいたい2V」という経験則は、この電流域では十分に使える近似だとわかります

測った数字を、足してみる

ここでいちばんやってほしいことがあります。測った電圧を、ループに沿って全部足すことです。

コレクタ側のループは、電源から出て「LED → RC → トランジスタ」を通ってGNDへ戻ります。途中の電圧降下を全部足せば、電源電圧に戻るはずです。これがキルヒホッフの電圧則(KVL)です。

V_F + V_{R_C} + V_{CE} = 2.065 + 2.47 + 0.067 = 4.602\ \text{V}

電源の実測は 4.60V。差は 2mV です。

ループ上の要素 実測電圧
LED(VF 2.065 V
RC(147Ω) 2.470 V
トランジスタ(VCE 0.067 V
合計 4.602 V
電源 VCC(実測) 4.60 V

4桁目でしか違いません。部品を並べて計算した紙の上の話と、机の上の現物が、2mVの精度で一致している。 電子工作でいちばん気持ちのいい瞬間はここだと思っています。

そしてこの足し算は、気持ちよさのためだけにやるのではありません。 合計が電源電圧にならなければ、どこかの測定値が間違っているという意味になります。数字が閉じたこと自体が、上の表の信頼性の裏付けです。

⚠️ 直流の値は、回路を静止させてから測る

スイッチング回路の直流の動作点をテスターで測るときは、駆動信号をHIGHに固定して「点きっぱなし」にしてから当ててください。点滅させたまま当てると、まったく違う数字が出ます。

テスターのDCレンジは、速く切り替わる電圧を追いきれずに平均を返すからです。デューティ50%で点滅させていれば、ON中に2.47Vある RC の両端は、その半分の1.2V前後に見えます。1秒に何百回も切り替わる電圧のうち、テスターが表示できるのは「ならした値」だけです。

やっかいなのは、平均を読んでいても、それらしい数字が出てしまうことです。ここで効くのが上のKVL検算で、足して電源電圧にならなければ、どれかの測定値が疑わしいと判断できます。

波形はオシロで、直流の数字はテスターで、そのとき回路は静止させておく。 測定器ごとの得意分野を混ぜないのが、結局いちばんの近道です。

✅ 電流は「電流計を挟む」より「抵抗の両端を測る」

上のコレクタ電流は、電流計を直列に挟まず、RC の両端電圧を測ってオームの法則で割り算して出しました。理由は2つあります。

  1. 回路を切らなくていい。 電流計は配線を一度切って直列に入れる必要がありますが、電圧なら両端に当てるだけです
  2. 動作点を乱さない。 電流計には内部抵抗があり、挟むとそのぶん電圧が落ちて電流そのものが変わります。いっぽうテスターの電圧レンジの入力抵抗は一般に10MΩで、147Ωに対して十分に高く、回路にはほとんど影響しません

すでに電流制限抵抗が入っている回路なら、その抵抗がそのまま電流計として使えます。 今回も電流計直読の17mAと、割り算で出した16.8mAはよく一致しました。

スイッチング波形を見る

ここからがこの実験のいちばん面白いところです。ベースを手動でON/OFFする代わりに、Arduino から約950Hzの矩形波を入れ、オシロスコープで切り替わりの瞬間を覗きます。CH1(赤・上)が駆動信号 Sig、CH2(黄・下)がコレクタ電圧です。

①全体像:入力と出力は逆さまになる

2SC1815スイッチング回路の全体波形。駆動信号とコレクタ電圧が逆相になっている

500µs/div。CH1(赤)がArduinoからの駆動信号、CH2(黄)がコレクタ電圧。上下が反転している

まず目に入るのが逆相です。Sig がHighのときトランジスタはON、コレクタは0V付近まで落ちる。Sig がLowのときはOFFで、コレクタは持ち上がる。入力と出力が反転するのはエミッタ接地の基本的な性質で、実験4の増幅回路でもまったく同じことが起こります。

項目 実測
駆動周波数 約 952 Hz
デューティ比(CH1 / CH2) 50.71 % / 49.76 %
コレクタのLow側 ほぼ 0 V(飽和)
コレクタのHigh側 3.44 V

CH1が50.71%、CH2が49.76%——足すとほぼ100%になるのも、2つが裏返しの関係にあることの裏付けです。

②コレクタのHighが5Vにならないのはなぜか

ここで「あれ?」と思ってほしいところがあります。OFFのとき、コレクタは電源電圧の4.60Vまで上がるはずなのに、波形は3.44Vで止まっています。故障でも測り間違いでもありません。

コレクタは、LEDと RC を通して電源につながっています。OFFのときトランジスタには電流が流れないので、RC での電圧降下はゼロ——ここまでは想定どおりです。残りはLEDです。

4.60 - 3.44 = 1.16\ \text{V}

この約1.2Vが、LEDに残っている電圧です。定常点灯時の VF が2.065Vだったことを思い出してください。 光っているときより1V近く低い——電流がほとんど流れていないダイオードは、順方向電圧もそのぶん低いところに落ち着くわけです。ダイオードは、ごくわずかな電流しか流れていなくても電圧を落とします。オシロのプローブの入力抵抗や素子の漏れ電流ぶんの微小な電流がLEDを通っており、そのぶんの順方向電圧が現れている——発光するには足りない、しきい値より低い領域の電圧です。

💡 OFF時に読める電圧は、何を負荷にしているかで変わる

負荷がただの抵抗なら、OFF時のコレクタ電圧は電源電圧そのものになります。今回3.44Vで止まったのは、負荷にLEDが入っているからです。

「OFFなのに電源電圧が出ていない=壊れている」ではありません。コレクタで読める電圧は、トランジスタだけでなく、その上にぶら下がっている部品も含めた結果です。負荷をリレーやブザーに変えれば、また違う止まり方をします。

③ターンOFF:蓄積時間という待ち時間

2SC1815のターンOFFエッジ波形。駆動信号が落ちてからコレクタが上がるまで遅れがある

1µs/div。CH1(赤)が0Vに落ちてから、CH2(黄・コレクタ)が上がり始めるまでに1目盛り以上の間がある

注目してほしいのは、ONよりOFFのほうが遅いことです。深く飽和させたトランジスタはベース領域に電荷が溜まっていて、ベース電流を切ってもその電荷が抜けるまでコレクタ電流が流れ続けます。これを蓄積時間(storage time) と呼びます。

カーソルで読むと、蓄積時間は約1.3µs。1µs/divの画面で1目盛り以上、何も起きない時間があります。そこからコレクタが立ち上がりきるまでは0.15µs——つまり、「待ち時間」のほうが「実際の切り替わり」より8倍以上長いことになります。切り替わりが遅いのではなく、切り替わりが始まるまでが遅いのです。

もうひとつ、CH1が落ちた瞬間にCH2へ細いスパイクが飛び出しています。これはコレクタ・ベース間の帰還容量 Cob(データシートのTYP 2.0pF)を通して、ベース側の電圧変化がコレクタへ直接飛び込んだものです。トランジスタが増幅素子として働く前に、コンデンサとして信号を通してしまっている。 わずか数pFでも、急峻なエッジに対しては無視できないことがわかります。

④ターンON:こちらは数十ns

2SC1815のターンONエッジ波形。駆動信号の立ち上がりとほぼ同時にコレクタが落ちている

100ns/div。Sig(赤)の立ち上がりとほぼ同時に、コレクタ(黄)が飽和電圧まで落ちている

同じ回路のターンON側です。まず時間軸を見てください——1µs/div から 100ns/div へ、10倍拡大しています。 そこまで拡大して、ようやく「落ちていく途中」が見える速さです。

Sig が立ち上がると、コレクタは待ち時間らしい待ち時間なしに、数十nsで飽和電圧まで落ちます。ONに蓄積時間が無いのは当然で、蓄積電荷とは「ONの間に溜め込んだものが、OFFのときに抜けきるのを待つ」現象だからです。溜める側には、待つ理由がありません。

ONとOFFは、同じ石でもこれだけ違う

エッジ 見えた時間軸 実測した時間
ターンON(駆動信号↑ → コレクタ↓) 100 ns/div 数十 ns
ターンOFF(駆動信号↓ → コレクタ↑) 1 µs/div 蓄積時間 約1.3µs + 立ち上がり 0.15µs

同じ石・同じ回路・同じ矩形波なのに、ONとOFFで所要時間が桁で違います。 ③と④を並べて見ると、スイッチング素子の「速さ」がONとOFFで別々の数字であることが実感できるはずです。データシートのスイッチング時間が td/tr/ts/tf と4つに分かれているのは、まさにこのためです。

発展実験: ベース抵抗を 3.3kΩ(今回・強制hFE ≒ 26)から 1kΩ(≒8、より深い飽和)と 10kΩ(≒80、浅い飽和)に変えて、蓄積時間がどう変わるか比べてみてください。深く飽和させるほどONは確実になるがOFFは遅くなる、というトレードオフが波形で見えます。

⚠️ 2SC1815のデータシートにスイッチング時間の規定は無い

上の表の項目は、いずれも2SC1815のデータシートには規定されていません(東芝版・UTC版・JCET版とも、td/tr/ts/tf の記載がありません)。

いっぽう2N3904のデータシートには、遅延時間35ns・立ち上がり35ns・蓄積時間200ns・立ち下がり50nsが規定されています。測定条件が同じではないので単純比較はできませんが、今回実測した蓄積時間 約1.3µs は、この200nsの6倍以上です。

高速スイッチングを保証したい設計では、スイッチング時間が規定されている品種を選ぶのが正解です。2SC1815は「規定が無い=速度を保証しない」部品として扱ってください。逆に言えば、今回のようにLEDを1kHz以下で叩くだけなら、1µsの遅れは何の問題にもなりません。


📏 実験2:hFEを実測する

パッケージに「Y」と印字されている以上、hFEは120〜240のはずです。本当にそうなのかを、手持ちの5本と、実験1で実際にLEDを叩いていた1本——合わせて6本で確かめます。

部品テスターに挿すだけで、3つの数字が出る

使ったのは FNIRSI LCR-P1 という部品テスターです。足を3本挟むだけで素子の種類とピン配置を自動判定してくれるタイプで、NPNトランジスタと判定されると hFE・IE(エミッタ電流)・UBE(ベース・エミッタ間電圧) の3つを並べて表示します。ソケットに挿し替えるだけなので、6本測るのに数分もかかりません。

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⚠️ テスターのhFE値がランク範囲から外れても不良ではない

データシートのhFEランクは、 V_{CE}=6\text{V},\ I_C=2\text{mA} という条件での値です。いっぽうテスターのhFE測定は、機種ごとに固有の測定条件 (多くは V_{CE} 3V前後・ I_B 10µA前後)で行われていて、その条件は取扱説明書に書かれていないことも珍しくありません。

hFEは電流で変わる量なので、条件が違えば値も違って当然です。テスターの値は「選別の目安」であって、規格判定には使えません。

6本ぶんの実測値

個体 hFE IE UBE
1本目 229 2.06 mA 650 mV
2本目 234 2.13 mA 644 mV
3本目 238 2.16 mA 640 mV
4本目 244 2.22 mA 640 mV
5本目 234 2.13 mA 642 mV
実験1で使った石 227 2.07 mA 642 mV
平均 234 2.13 mA 643 mV

数字の列を目で追うより、帯とバーの位置関係のほうが速く伝わります。 Yランクの規格範囲を背景に敷いて、6本を並べたのがこちらです。

2SC1815 6個体のhFE実測値とYランク規格帯120〜240を比較した棒グラフ

6本とも227〜244(平均234)。規格帯120〜240の上端付近に密集した。4本目の244は240をわずかに超えているが、テスターの測定条件はデータシートの規定条件と同一ではない

この6本から読めること

  • ランクの幅は広い。実物の散らばりは狭い。 Yランクは120〜240、つまり下限の2倍まで許される幅です。ところが実際に測った6本は227〜244——幅がたった17しかありません(平均234に対して約7%、最大と最小の比で1.08倍)。同じ通販コードでまとめて買った、おそらく同じロットの石なので当然とも言えますが、「ランクの幅」と「袋の中の実際のばらつき」はまったく別の数字だということです
  • しかも、全部が上端に張り付いている。 6本の平均は234で、Y上限の240まであと6です。下限の120側にはひとつも来ていません。「Yランクだから真ん中の180くらいだろう」という予想は外れます
  • 数字だけ見れば、GRランクの範囲でもある。 購入ガイドで触れたとおり、Yは120〜240、GRは200〜400で、200〜240は両者の重なりです。今回の6本は227〜244——5本はぴったりこの重なりの中、残る1本(244)はYの上限を超えてGR側だけの範囲に出ています。「Y」と印字された石が、数字の上ではGRの範囲にも収まっている。ランクは排他的な区分ではなく、境界がオーバーラップして設計されているという話が、そのまま実物で見えたことになります(もっとも、この数字はテスター条件での値なので、これをもって「GR相当」と言えるわけではありません)
  • UBE は640〜650mVでそろっている。 hFEには17の幅があったのに、こちらは10mVの幅しかありません。PN接合の順方向電圧は素子ごとの個体差が小さい——だからこそ実験4のバイアス設計で「VBE は0.65V」と決め打ちできるわけです。実際、実験4で測った動作点の VBE0.635V(IC = 0.92mA)で、テスターの値とほぼ一致しました
💡 実験1では0.75Vだったのに、なぜここは0.64Vなのか

実験1で測った VBE0.75V で、ここの640〜650mVよりだいぶ高い値でした。

理由は流している電流が違うからです。実験1のコレクタ電流は16.8mA。いっぽうテスターの測定は2.1mA前後、実験4の動作点は0.92mAでした。8倍から18倍も多く流しているぶん、VBE も上に持ち上がります。PN接合の順方向電圧は電流に対してゆるやかに(対数的に)上がるので、電流が桁で変われば0.1V単位で動きます。

「VBE は0.6V」も「0.7V」も「0.75V」も、どれも正しいのです。どの電流で使っているかを言わずにこの数字を語ると、必ずどこかで食い違います。

240を超えた1本は「規格外」なのか

4本目の244は、Yランクの上限240をわずかに超えています。では不良品なのか——そうは言えません。

データシートのランクは V_{CE}=6\text{V},\ I_C=2\text{mA} で測った値です。今回のテスターの測定条件は、それと同一ではありません。電流のほうは IE が2.06〜2.22mAなので条件のすぐ近くに来ていますが、VCE がいくらで測られているかは表示されません。条件が違う測定の結果を、条件付きの規格値と直接つき合わせて合否を出すことはできない、というだけの話です。

規格判定は、規格の条件を自分で作ってからでないとできない。 逆に言えば、「テスターで244が出た=Yランクの表示が嘘」ではありません。ここは慎重にいきましょう。

テスターが流しているベース電流を、逆算してみる

ここでもうひとつ、表示された数字だけから測定条件を推理してみます。使うのは、エミッタ電流とベース電流の関係です。

I_E = I_B + I_C = I_B (1 + h_{FE})

つまり、表示された IE を (hFE + 1) で割れば、テスターが流していたベース電流が出るはずです。6本ぶん計算してみます。

個体 hFE IE IE ÷ (hFE + 1)
1本目 229 2.06 mA 8.96 µA
2本目 234 2.13 mA 9.06 µA
3本目 238 2.16 mA 9.04 µA
4本目 244 2.22 mA 9.06 µA
5本目 234 2.13 mA 9.06 µA
実験1で使った石 227 2.07 mA 9.08 µA

6本とも、9.0µA前後でぴたりとそろいました(ばらつきは1.3%)。ここから、このテスターはベース電流を約9µAに固定して流し、そこに何mA流れたかでhFEを表示している——と読めます。上の注意書きに書いた「多くは IB 10µA前後」という一般論が、手元の6本の数字だけで裏付けられたことになります。測定器の中身を開けずに、出てきた数字から動作を推定する。 これも立派な測定です。

そしてこれが分かると、さっきの条件の話がもっと具体的になります。 ベース電流が固定なら、コレクタ電流のほうは石のhFE次第で動きます。今回たまたま IE が2mA近傍に来たのは、

9\ \mu\text{A} \times 234 \approx 2.1\ \text{mA}

という掛け算の結果にすぎません。もしhFE 350のGRランクを同じソケットに挿せば、電流条件のほうが3mA超へ勝手にずれていきます。 「テスターの条件はデータシートと違う」というのは、こういう中身のことです。

実験1の石は、実力の10分の1以下で使われていた

最後に、6本目——実験1でLEDを叩いていた石を見てください。実力のhFEは 227 です。

いっぽう実験1で実際に成立していた比は、 16.8\ \text{mA} / 0.83\ \text{mA} \approx 20 (強制hFE)でした。227の実力に対して、20しか使っていない。 必要なベース電流は本来 16.8 / 227 \approx 0.074\ \text{mA} で足りるところに、その11倍の0.83mAを流し込んでいた計算になります。

無駄に見えますか。これがスイッチング設計そのものです。 実験1で「hFEを設計に使ってはいけない」と書いた理由が、ここで数字になりました。仮にこの袋の中でいちばんhFEが低い石を引いても、いちばん高い石を引いても、227も244も20の10倍以上あるので、どちらも確実に飽和します。 ばらつきを気にしなくてよくなるまで余分に流す——それが「hFEに依存しない設計」の中身です。

💡 部品テスターが無い場合:規格の条件を自分で作る(今回は未実施)

テスターに頼らず、 V_{CE}=6\text{V},\ I_C=2\text{mA} という条件を自分で組んで測ることもできます。

9V電源に、コレクタ側 RC = 1.5kΩ、ベース側に 470kΩ + 1MΩ半固定を直列に入れ、エミッタはGND直結。RC の両端がちょうど3.00Vになるまで半固定を回すと、 I_C = 3.00 / 1500 = 2.00\ \text{mA}V_{CE} = 9 - 3.00 = 6.00\ \text{V} でデータシートの条件に一致します。あとはベース電圧を測り、回路から外して実測した RB で割ればベース電流が出て、2.00mA をそれで割ればhFEです。

今回この方法は実施していません。 上の数字はすべて部品テスターによるものです。

なおこの回路でベース電圧を当たるときは、テスターの入力抵抗(一般に10MΩ)を通してわずかな電流が逃げます。ベース電流10µA程度に対して逃げるのは0.07µA程度なので誤差は1%以下ですが、測定器を当てること自体が回路を変えるという感覚は持っておいてください。ハイインピーダンスな回路ほど、この影響は大きくなります。

発展: 上の回路で R_C を変えて I_C を 0.1mA / 2mA / 20mA と振ると、hFEが電流で変化するようすを自分でグラフにできます。2SC1815の売り文句である「hFEの電流依存性が優れている」(東芝データシートでは h_{FE}(I_C=0.1\text{mA}) / h_{FE}(I_C=2\text{mA}) = 0.95 TYPと規定)が、実物で確かめられます。


💡 実験3:2石で非安定マルチバイブレータ

最後は、トランジスタ2個だけで作る自励発振回路です。ICもマイコンも使わずにLEDが交互に点滅します。

そもそもマルチバイブレータとは

回路を組む前に、名前の意味を押さえておきます。

マルチバイブレータ(multivibrator)は、2つの状態を行き来するスイッチング回路の総称です。信号を連続的に扱う増幅回路とは違い、トランジスタを完全にONかOFFのどちらかで使います。 実験1でやった飽和と遮断の世界が、そのまま出てくると思ってください。

必要なのはトランジスタ2石と、抵抗とコンデンサだけ。それだけで「発振」「タイマー」「記憶」という、デジタル回路の基本機能の原型がひととおり作れます。 何が作れるかを決めているのは、部品の種類ではなく「安定状態がいくつあるか」です。

種類 安定状態の数 ふるまい 生まれる機能
非安定(astable) 0個 どちらの状態にも留まれず、勝手に往復し続ける 発振——クロック・点滅。今回作るのはこれ
単安定(monostable) 1個 ふだんは安定側にいる。外から突かれると一定時間だけ反転し、自分で戻る ワンショットタイマー——一定時間だけONにする
双安定(bistable) 2個 どちらの状態でも留まり続ける。外から信号が来るまで変わらない 記憶——フリップフロップ、つまりレジスタやメモリの原点

「非安定」とは「どこにも落ち着けない」ということ

ここで言う「安定」とは、外から何もしなくてもその状態のままでいられる、という意味です。

だから安定状態が0個の回路は、どちらの状態にも落ち着けません。 片方がONになった次の瞬間には、もう反転する準備が始まっている——落ち着き先が無いから、永遠に往復し続ける。 これが発振の正体です。

「不安定=出来が悪い」ではありません。 留まれないという性質を、そのまま時間を刻む道具として使っているのがこの回路です。

💡 ワード解説:「非安定」と「無安定」は同じもの

英語の astable の訳語で、「非安定マルチバイブレータ」と「無安定マルチバイブレータ」は同じ回路を指します。書籍や作例によって表記が分かれるだけなので、検索するときはどちらでも探してみてください。

安定状態の数え方そのものは、この連載の #4 NE555N 回の「安定状態」という考え方 で整理しています。555タイマーICがICの中でやっていることを、これからトランジスタ2石で外に取り出す——という関係です。

何に使われてきた回路なのか

  • 点滅・フラッシャー回路:2つのLEDを交互に光らせる、まさに今回の形。表示灯や点滅回路の古典的な構成です
  • クロック源:一定の周期でHIGH/LOWを繰り返す、いちばん簡単な発振回路。周期は抵抗とコンデンサで決まります
  • デジタル回路への系譜:単安定はタイマーへ、双安定はフリップフロップ——レジスタやメモリへとつながります

同じことをしたいだけなら、いまはマイコンのタイマーか555タイマーIC(#4)を使うほうが速いし、精度も出ます。それでもこの回路を手で組む価値は、発振がなぜ起きるのかを素子1個ずつのレベルで追えることにあります。ICの中に隠れている仕組みを、外に並べて見るわけです。

回路

2SC1815 2石による非安定マルチバイブレータの回路図

実験3の回路。R1/R4 がベース抵抗100kΩ、R2/R3 がコレクタ抵抗470Ω。C1・C2 の10µF電解を左右たすき掛けにするのが要点で、+側はどちらもコレクタ側を向く

部品 数量
2SC1815 Q1 / Q2 2
コレクタ抵抗 RC 470 Ω(R2 / R3) 2
ベース抵抗 RB 100 kΩ(R1 / R4) 2
コンデンサ C 10 µF(電解・C1 / C2) 2
LED 好みの色(D1 / D2) 2
電源 5.0 V(安定化電源。後述の理由で9Vにしない) 1

左右対称に見えますが、Q1のコレクタはQ2のベースへ、Q2のコレクタはQ1のベースへと、コンデンサがたすき掛けになっているところだけが唯一のひねりです。電解コンデンサの向き(+側をコレクタ側)だけ間違えないようにしてください。

動作と周期

片方のトランジスタがONのとき、そのコレクタ電圧が下がり、コンデンサを介して相手のベースを引き下げてOFFにします。OFF側のベースはRBを通じて充電されていき、約0.6Vに達したところで反転——これを永久に繰り返します。「相手を蹴落とし合う」構造が発振の正体です。

片側がONでいる時間は、次の式で見積もれます。

t = 0.693 \times R_B \times C t = 0.693 \times 100{,}000 \times 0.00001 \approx 0.69\ \text{s}

周期はその2倍の約1.39秒、周波数にして約0.72Hzです。目でしっかり追える速さになります。

動かしてみる

まずは動いているところから。1秒に1往復くらいのゆっくりした点滅なので、目で追えます。

マイコンもICも入っていません。トランジスタ2個と抵抗4本とコンデンサ2個が、勝手に時間を刻んでいます。

波形で確かめる

両方のコレクタにプローブを当てて、同時に見てみます。

非安定マルチバイブレータの2つのコレクタ波形。互いに逆相で反転している

200ms/div・2V/div。CH1(赤)とCH2(黄)はそれぞれQ1・Q2のコレクタ。きれいに逆相で、片方がHighのときもう片方はLow

項目 設計値 実測
片側のON時間 0.69 s 約 0.51 s
発振周期 1.39 s 約 1.01 s
発振周波数 0.72 Hz 0.987 Hz

波形から読めることが3つあります。

① 2つのコレクタは完全に逆相。 デューティ比は 50.30% と 49.31%。足すとほぼ100%で、片方がONの間だけもう片方がOFFという、たすき掛けの関係がそのまま数字に出ています。左右対称に組んだ回路が、対称なまま動いている証拠です。

② コレクタのHighは5.0Vではなく、3.5〜3.6Vで浮いている。 ——実験1の②で見たのと同じ現象です。負荷にLEDが入っているので、OFF側のコレクタは電源電圧まで上がりきらず、LEDのしきい値以下の順方向電圧ぶんだけ手前で止まります。同じ石・別の回路で、同じ理屈がもう一度出てきました。 そしてこの「浮き」は、このあと周期の話にまで効いてきます。

③ 立ち下がりは鋭く、立ち上がりは丸い。 落ちる側はトランジスタが自分でONになって一気に引き下げるので垂直に近い。いっぽう上がる側は、コレクタ抵抗を通してコンデンサを充電する指数カーブなので、角が丸くなります。同じ1本の波形の中で、能動素子が作ったエッジとRC回路が作ったエッジが並んで見えているわけです。

設計0.72Hz、実測0.987Hz——差はどこから来たのか

設計値より4割ほど速く発振しました。ずれの理由は、たどると2つに分かれます。

理由① 設計式が置いている前提

0.693 \times R_B \times C という式は、「ベースが -V_{CC} まで引き下げられ、そこから +V_{CC} に向かって充電され、0Vに達したところで反転する」という理想形から出ています。一般形で書くとこうです。

t = R_B C \ln \frac{V_{CC} - V_{start}}{V_{CC} - V_{th}} V_{start} = -V_{CC},\ V_{th} = 0 \quad \Rightarrow \quad t = R_B C \ln 2 = 0.693\, R_B C

ところが実機では、出発点が -5\text{V} ではありません。 次の節の波形で見るとおり、ベースが叩き落とされる先は −3.04V です。理由は②で見たLEDの浮き——相手のコレクタが5.0Vまで上がっていないので、落差もそのぶん小さくなります。到達点も0Vではなく、実際にトランジスタがONになる0.65V付近です。この2つを入れ直すと、

t = 1.0 \times \ln \frac{5 - (-3.04)}{5 - 0.65} \approx 0.61\ \text{s}

0.69秒が0.61秒になりました。「LEDのぶんコレクタが浮く」という実験1で見た現象が、ここでは発振周波数として現れているわけです。

理由② 電解コンデンサの容量公差

残りの 0.61秒 → 0.51秒 の差は、時定数そのものが小さいと考えれば説明がつきます。逆算すると R_B C \approx 0.83\ \text{s} 、つまり10µFのつもりで挿したコンデンサが実質8µF台だった、という計算です。電解コンデンサの容量公差は±20%程度が普通なので、十分ありうる範囲に収まります。

📌 ずれを「誤差」で片付けない

設計0.72Hzに対して実測0.987Hz——1.4倍です。数字だけ見ると外れているようですが、内訳は「式が置いた前提と実機の違いが1割強」「部品公差が2割弱」で、どちらも理由のはっきりした差でした。

式は、前提とセットで初めて意味を持ちます。 0.693という係数は覚える値ではなく、 \ln 2 がどこから来たのかを知っていれば、前提が変わったときに自分で計算し直せます。時間を正確に決めたい用途で555やマイコンが選ばれるのも、まさにこの「前提のブレ」を回路側で潰しているからです。

ベースはどこまで負に振られるか

最後にもう1枚、ベースにプローブを当てた波形を見ます。この回路でいちばん危ないところが、ここに写っています。

非安定マルチバイブレータのベース電圧波形。反転の瞬間にマイナス3Vまで引き下げられ、指数カーブで充電されていく

200ms/div・2V/div。CH1(赤)が片方のベース、CH2(黄)が相手側のコレクタ。相手がONになった瞬間、ベースは −3.04V まで叩き落とされ、そこから指数カーブで充電されていく

1周期のあいだにベースが辿る道のりは、こうです。

  1. 相手のトランジスタがONになった瞬間、コンデンサ経由でベースが −3.04V まで引き下げられる(自分は確実にOFF)
  2. そこから RB を通じて電源へ向かって指数カーブで充電されていく——この時間が発振周期を決めている
  3. 0.65V付近まで戻ったところで自分がONになり、今度は相手を蹴落とす
  4. ON中のベースは0.72Vでクランプされる(ベース・エミッタ間が順方向に導通しているため、それ以上は上がらない)

ゆっくり上がる坂と、垂直に落ちる崖。 この非対称な鋸歯状の波形が、そのまま「相手を蹴落とし合う」動作を描いています。

そして、この波形が示している数字がもう1つあります。マイナス3.04Vです。

⚠️ 電源電圧を上げすぎると V_EBO を超える

この回路には、初心者向けの作例ではあまり触れられない落とし穴があります。

反転の瞬間、OFF側トランジスタのベースは一時的にマイナス電圧まで引き下げられます。その大きさは電源電圧に近く、ベース・エミッタ間には逆方向にほぼ VCC 相当の電圧がかかります。

2SC1815の VEBO(エミッタ・ベース間逆電圧)の絶対最大定格は5V です。つまり、

  • VCC = 5V → 実測 −3.04V。定格5Vの内側に収まっている。この記事ではこちらを採用
  • VCC = 9V → 同じ比率なら −6〜7V級絶対最大定格を超える使い方になる

上のベース波形は、この安全マージンを実測で裏付けたものです。5Vなら定格の内側、9Vなら外側——境目がどこにあるかを、波形1枚で確認できます。

作例によっては9Vで組んでいるものもありますが、絶対最大定格を超える設計は推奨できません。9Vで組みたい場合は、各ベースに直列でダイオード(1N4148など)を1本入れて逆電圧をブロックします。

なお、実験1・実験2・実験4の回路ではベースが負電圧まで引かれることはないので、この心配は不要です。「同じ部品でも、回路によって効いてくる定格が違う」——データシートを最初から最後まで読む価値は、こういうところに出ます。

💡 発振が始まらないときは

理論上、完全に対称な回路は発振しません(両方が同時に同じ状態で釣り合ってしまう)。実際には抵抗やトランジスタのばらつきが必ずあるので勝手に起動しますが、起動しない場合は片方のベースを一瞬だけ指で触るか、コンデンサの片方を別の容量(10µF と 22µF など)にして非対称にしてください。 「ばらつきがあるおかげで動く回路」 というのも面白い話です。


📈 実験4:エミッタ接地増幅回路

最後に、活性領域の使い方をやります。ここまでの3つはトランジスタをONかOFFで使ってきましたが、今度はその途中の状態に留めて信号を扱います。 トランジスタ本来の仕事である「増幅」です。

何をする回路か

小さな交流信号(10mVpp程度の正弦波)を入れて、100倍以上に増幅して出す回路を作ります。エミッタをGND側に置くのでエミッタ接地(common emitter) と呼ばれ、増幅回路のもっとも基本的な形です。

特徴は2つ。利得が大きいことと、出力が入力に対して反転する(位相が180°ずれる)ことです。この反転は実験1の波形①でも見たとおりで、オシロで一目でわかります。

回路と定数

2SC1815によるエミッタ接地増幅回路の回路図

実験4の回路。電流帰還バイアス+エミッタバイパスコンデンサ構成。R11=100kΩ/R12=22kΩ がバイアス分圧、R13=3.9kΩ がコレクタ負荷、R14=1kΩ がエミッタ抵抗、C7=100µF がエミッタバイパス、C8/C6=10µF が入出力の結合コンデンサ。左下の R16=10kΩ と R15=22Ω が信号源の分圧アッテネータで、Q4 が 2SC1815

部品 回路図の記号 役割
VCC +9V 9 V 電源(安定化電源)
R1 R11 100 kΩ バイアス分圧(上側)
R2 R12 22 kΩ バイアス分圧(下側)
RC R13 3.9 kΩ コレクタ負荷。利得を決める
RE R14 1 kΩ エミッタ抵抗。動作点を安定させる
CE C7 100 µF エミッタバイパス。交流的にREを無効化する
Cin / Cout C8 / C6 10 µF 直流を切って交流だけ通す
アッテネータ R16 / R15 10 kΩ / 22 Ω 信号源を1/456に分圧する
トランジスタ Q4 2SC1815L-Y-T92 主役

設計①:動作点(バイアス)を決める

増幅回路では、信号が無いときのコレクタ電圧を電源の真ん中あたりに置くのが基本です。そうすれば信号が上にも下にも同じだけ振れます。

まずベース電圧を分圧で作ります。

V_B = V_{CC} \times \frac{R_2}{R_1 + R_2} = 9 \times \frac{22}{100 + 22} \approx 1.62\ \text{V}

エミッタ電圧はここから V_{BE} ぶん下がります。

V_E = V_B - V_{BE} \approx 1.62 - 0.65 = 0.97\ \text{V}

エミッタ抵抗に流れる電流が、ほぼそのままコレクタ電流です。

I_C \approx I_E = \frac{V_E}{R_E} = \frac{0.97}{1000} \approx 0.97\ \text{mA}

コレクタ電圧は、

V_C = V_{CC} - I_C \times R_C = 9 - 0.00097 \times 3900 \approx 5.22\ \text{V} V_{CE} = V_C - V_E = 5.22 - 0.97 = 4.25\ \text{V}

コレクタ電圧5.22Vに対して、上には 9 - 5.22 = 3.78\ \text{V} 、下には 5.22 - 0.97 - 0.2 \approx 4.05\ \text{V} の余裕があります。おおむね対称なので、最大で7.5Vppくらいまで歪まずに振れる見込みです。

📌 この回路の主役はR_E(電流帰還バイアス)

上の計算で hFEが一度も出てきていないことに気づいたでしょうか。ここがこの回路の最大の美点です。

もし何かの理由でコレクタ電流が増えると、 V_E = I_E \times R_E が上がります。ベース電圧 V_B は分圧で固定されているので、 V_{BE} = V_B - V_E が減り、電流が減る方向に自動で戻ります。 これが負帰還です。

おかげで、hFEが120の石でも240の石でも、ほぼ同じ動作点になります。 ランクをYからGRに変えても動く回路が作れる——これが「hFEが大きければいいわけではない」の意味です。

💡 分圧抵抗の値はどう決めるのか

分圧回路にはベース電流の10倍程度(ブリーダ電流)を流すのが定石です。ベース電流は I_B = I_C / h_{FE} \approx 0.97 / 180 \approx 5.4\ \mu\text{A} なので、その10倍は約54µA。R1とR2の直列合計を 9\ \text{V} / 54\ \mu\text{A} \approx 167\ \text{k}\Omega 前後にすればよく、100kΩ+22kΩ=122kΩはその条件を満たします(実際のブリーダ電流は約74µA)。

分圧抵抗を大きくしすぎるとベース電流の影響で動作点がずれ、小さくしすぎると入力インピーダンスが下がって電流も無駄に食う——そのバランスです。

設計②:利得を計算する

交流的な利得は、次の式で見積もれます。

A_v = -\frac{R_C}{r_e}

r_eエミッタの内部抵抗で、常温では次の近似が使えます。

r_e \approx \frac{26\ \text{mV}}{I_E} = \frac{26}{0.97} \approx 26.8\ \Omega

したがって、

A_v = -\frac{3900}{26.8} \approx -146

約146倍、マイナス符号は位相反転を意味します。10mVppを入れれば1.46Vppが出てくる計算です。

ここで C_E (エミッタバイパスコンデンサ)の役割がわかります。直流的にはREが効いて動作点を安定させ、交流的にはCEがREを短絡して利得を稼ぐ。 一つの回路で相反する要求を両立させる、古典的だが見事な仕掛けです。

CEを外すと利得はこうなります。

A_v = -\frac{R_C}{r_e + R_E} = -\frac{3900}{26.8 + 1000} \approx -3.8

146倍が3.8倍に落ちます。 これは後で実際に確かめます。

信号源:Arduino UNO R4 の DAC を使う

10mVppの正弦波をどう用意するか——ここがこの実験のハードルです。ファンクションジェネレータがあれば話は早いのですが、Arduino UNO R4 には12ビットのDACがA0ピンに載っているので、これで代用できます。標準ライブラリの analogWave を使うと、実質3行で正弦波が出ます。

#include "analogWave.h"

analogWave wave(DAC);   // A0 の DAC を使う

void setup() {
  wave.sine(1000);      // 1kHz の正弦波を出しっぱなしにする
}

void loop() {
}

これで A0 から約4.7Vppの1kHz正弦波が出続けます。ただし増幅回路に入れるには大きすぎるので、抵抗2本で分圧してから入れます。

  A0 (DAC) ---[ 10k ]---+---[ C8 ]--- Q4 のベースへ
                        |
                     [ 22 ]
                        |
                       GND

抵抗値の単位はΩ。10kΩ と 22Ω なので、分圧比は 22 / (10000 + 22) \approx 1/456 です。DACの実測4.72Vppを456で割ると、約10.4mVpp ——狙いどおりの大きさになります。

クリッピングを見るときは、22Ωを100Ωに差し替えます。 分圧比が約1/101になるので、入力は約47mVpp、およそ4.5倍です。

⚠️ ArduinoのGNDと9V電源のGNDをつなぐ

信号源がArduino、増幅回路の電源が別の9V——この2つのGNDを必ず接続してください。 つないでいないと、信号の電圧を測る基準そのものが2つの回路で別々になり、波形が出ない、あるいは意味のない波形になります。

「信号線1本つなげば信号が渡る」わけではありません。電圧は必ず2点間の差なので、行きの線(信号)と帰りの線(GND)が対で必要です。別電源の機材どうしをつなぐときは、まずGNDを共通にする——これが最初の1本です。

✅ オシロで測れない小ささの信号は、手前で測って計算する

入力の10mVppは、垂直感度の下限が20mV/divのオシロでは1目盛りの半分にしかならず、まともに読めません。ノイズに埋もれて数字が暴れます。

こういうときは、分圧する前(DAC出力)を測って、分圧比で割るのが実用的です。4.72VppならCH1のレンジで正確に読めますし、分圧比は抵抗2本の比なので誤差が小さい。「測れないものは、測れるところで測って計算する」 ——分圧・シャント抵抗・プローブの減衰比と、電子回路の測定はだいたいこの発想でできています。

以下の入力電圧は、すべてこの方法で求めた値です。

測る①:直流の動作点

信号を入れない状態で、まず直流を確認します。ここが合っていなければ、交流は測るだけ無駄です。

項目 設計値 実測
ベース電圧 VB 1.62 V 1.54 V
エミッタ電圧 VE 0.97 V 0.905 V
コレクタ電圧 VC 5.22 V 5.41 V
VBE 0.65 V(仮定) 0.635 V
コレクタ電流 IC 0.97 mA 0.92 mA
VCE 4.25 V 4.51 V

コレクタ電流は直接測らず、2つの別ルートから出しています。

I_E = \frac{V_E}{R_E} = \frac{0.905}{1000} = 0.905\ \text{mA} I_C = \frac{V_{CC} - V_C}{R_C} = \frac{9 - 5.41}{3900} \approx 0.92\ \text{mA}

エミッタ側から見ても、コレクタ側から見ても、同じ電流が出てきました。 差は2%以内で、これはエミッタ電流とコレクタ電流のわずかな違い(ベース電流ぶん)と測定誤差の範囲です。実験1のKVL検算と同じで、別ルートの数字が一致することが、測定が正しいことの担保になります。

設計値との差も見ておくと、VBE を0.65Vと仮定したのに対し実測は0.635V、そのぶんベース電圧まわりが少しずれて動作点が上に寄りました。それでもコレクタ電流は0.97mA設計に対し0.92mAで5%以内。 hFEを一度も使わずに設計した動作点が、ちゃんと再現しています。

測る②:交流とゲイン

いよいよ増幅の本番です。

エミッタ接地増幅回路の入出力波形。出力が反転している

1ms/div。CH1(赤)がDAC出力4.72Vpp、CH2(黄)が増幅回路の出力1.58Vpp。上下が反転しているのがエミッタ接地の特徴。CH1の階段状のギザギザは12ビットDACの量子化ステップ

項目 設計値 実測
DAC出力 約5 Vpp 4.72 Vpp(998.9 Hz)
入力電圧 Vin(分圧後) 約10 mVpp 約10.4 mVpp
出力電圧 Vout 約1.46 Vpp 1.58 Vpp
電圧利得 Av 約146倍 約152倍
位相関係 反転(180°) 反転(180°)

10.4mVが1.58Vになりました。 5円のトランジスタ1個で、152倍です。

設計の146倍に対して実測152倍——4%の差です。実測の動作点 I_C = 0.92\ \text{mA}r_e を計算し直すと、

r_e \approx \frac{26}{0.92} \approx 28\ \Omega \quad \Rightarrow \quad A_v \approx \frac{3900}{28} \approx 139

となり、こちらとは9%の差になります。 r_e = 26\text{mV} / I_E は温度で変わる近似式(分子は熱電圧で、常温で25〜26mV)なので、この程度のずれは式の精度そのものです。桁でも係数でもなく、1割の話に収まっているなら十分に「合っている」と言えます。

波形で確認しておきたいのはもう1つ、位相です。 CH1が上に振れているとき、CH2は下に振れています。ベース電圧が上がる → コレクタ電流が増える → RC での電圧降下が増える → コレクタ電圧は下がる。実験1のスイッチング波形で見た逆相と、まったく同じ理屈がここでも働いています。

測る③:クリッピングを見る

入力を大きくしていくと、あるところで出力の頭がつぶれます。これがクリッピングです。アッテネータの22Ωを100Ωに差し替えて、入力を約47mVppに上げました。

エミッタ接地増幅回路のクリッピング波形。出力の上下が非対称に歪んでいる

1ms/div。CH2(黄)が出力で、上側 +2.36V/下側 −3.44V と上下が非対称に歪んでいる。CH1(赤)は分圧後の入力だが、20mV/divでは読み取れずノイズに埋もれている

出力は 上側 +2.36V / 下側 −3.44V ——上下で振幅が違います。 素直な正弦波なら上下対称に振れるはずなので、これは歪みです。

なぜ上側から先につぶれるのか。 2つの理由が重なっています。

  1. 上に振れる=コレクタ電流が減る局面だから。 r_e = 26\text{mV} / I_E は電流が減ると大きくなり、利得 A_v = R_C / r_e は逆に小さくなります。つまり振幅が大きくなるほど、上側だけゲインが落ちて丸くなる
  2. 上側のほうが余裕が少ないから。 実測の動作点は VC = 5.41V で、設計の5.22Vより少し高い。上に使える幅は 9 - 5.41 = 3.59\ \text{V} 、下は約4.3V。狭いほうから先に頭打ちになります
つぶれる側 原因 対処
上側(VCCに張り付く) コレクタ電流が0に近づく(遮断)。動作点が高すぎる R2を大きく/R1を小さくして電流を増やす
下側(0V近くで止まる) VCEが飽和電圧まで落ちきる(飽和)。動作点が低すぎる R2を小さく/RCを小さくする
上下同時 動作点は適正。単に入力が大きすぎる 入力を下げる

上下が同じタイミングでつぶれ始めるなら、動作点は理想的です。今回は上側が先——つまり動作点がわずかに高い側に寄っている、と波形が教えてくれています。「計算した動作点が正しかったか」を波形が採点してくれる、気持ちのいい確認方法です。

測る④:C_E を外すと何が起きるか

最後に、エミッタバイパスコンデンサ CE(C7・100µF)を1本抜くだけの実験をします。設計②で計算したとおりなら、利得は146倍から3.8倍へ——40分の1に落ちるはずです。

エミッタバイパスコンデンサを外したときの出力波形。振幅が大幅に小さくなっている

1ms/div。CH2(黄)の垂直感度は 50mV/div で、直前のクリッピング波形の 1V/div から20倍拡大している。入力は同じ約47mVppのまま

入力はクリッピングのときと同じ約47mVpp、出力は約0.2Vpp。利得にすると約4倍です。設計値3.8倍とよく一致しました。

そして、この波形にはもう1つ見どころがあります。さっきクリップして頭がつぶれていた同じ入力で、波形が歪まなくなっていることです。

📌 コンデンサ1本が、利得と素直さを取り引きしている

CE があるとき:利得152倍、ただし47mVppを入れると歪む。 CE が無いとき:利得4倍、しかし47mVppでもきれいなまま

抜いた/挿したのはコンデンサ1本です。それだけで利得が38倍変わり、扱える入力の大きさも変わりました。

CE が無いときの利得 A_v = R_C / (r_e + R_E) は、分母の大部分が RE(1kΩ) です。RE は温度でも電流でも変わらない、ただの抵抗——だから利得が素子のばらつきに左右されず、入力が大きくなっても一定になります。これが交流の負帰還です。

利得を取るか、素直さを取るか。 増幅回路の設計がいつも悩むのはここで、実際のオーディオアンプでは CE を部分的に効かせる(REを2本に分けて片方だけバイパスする)といった中間解が使われます。5円の石と100µF 1本で、その選択がそのまま波形に出る——これが実験としていちばん面白いところです。

⚠️ 低域が落ちるのはコンデンサのせい

この定数だと、60Hz付近から下の低音が落ち始めます。 エミッタバイパスコンデンサCE(100µF)が交流的にREを短絡できる下限が

f \approx \frac{1}{2 \pi C_E r_e} = \frac{1}{2\pi \times 100\ \mu\text{F} \times 26.8\ \Omega} \approx 59\ \text{Hz}

だからです。オーディオ用途で20Hzまで伸ばしたいなら、CEを470µF以上にしてください。DACの周波数を10Hz〜100kHzで振って出力を記録すれば、そのまま周波数特性のグラフになります。 wave.sine() の引数を変えるだけなので、スケッチ側の準備もほとんど要りません。


🧭 使いどころと代替品

2SC1815が得意なこと・苦手なこと

内容
得意 小信号増幅(オーディオのプリ段・センサ信号)/150mAまでのスイッチング/LED・小型リレー・ブザーの駆動/発振回路/定電流源やレベルシフトなどの汎用回路
苦手 150mAを超える負荷(モーター・パワーLED)/50Vを超える回路/高速スイッチング(スイッチング時間の規定が無い)/面実装基板(TO-92はスルーホール専用)

モーターやパワーLEDを回したいなら、MOSFETやパワートランジスタを選んでください。2SC1815は「小さい信号を扱う石」 です。

海外の定番との比較

項目 2SC1815L(UTC) 2N3904(Fairchild/onsemi) BC547B(例:Multicomp)
VCEO 50 V 40 V 45 V
VCBO 60 V 60 V 50 V
VEBO 5 V 6 V 6 V
IC 150 mA 200 mA 100 mA
PD(25℃) 625 mW 625 mW 500 mW
hFE 70〜700(ランク選別) 100〜300
(IC=10mA)
MIN 200
(IC=2mA)
fT MIN 80 MHz MIN 300 MHz TYP 300 MHz
スイッチング時間 規定なし ts=200ns など規定あり 規定なし
TO-92ピン配置 E・C・B E・B・C C・B・E
相補PNP 2SA1015 2N3906 BC557

読み取れること

  • 耐圧が欲しいなら2SC1815(50V)。2N3904は40Vなので、AC100V整流後のような高電圧回路には向きません
  • 速さが欲しいなら2N3904(fT 300MHz、スイッチング時間の規定あり)
  • hFEを選別して買えるのは2SC1815の強み。BC547もA/B/Cのランクがありますが、日本国内では2SC1815のほうがランク指定で買いやすい
  • ピン配置は3種類とも違う。 差し替えるときは必ず配線を見直すこと

入手性

秋月電子で 2SC1815L-Y-T92(通販コード106475) が20個100円。GR・BLランクも同価格帯で、1000個入りの袋も選べます。この記事の実験全部をやっても数個しか使わないので、1パック買えば当分なくなりません。

なお、東芝オリジナルと同等クラスの汎用小信号トランジスタを面実装で使いたい場合は、SOT-23パッケージの品種を探すことになります。TO-92は今やスルーホール実験のための形状です。


✅ まとめ

📌 この記事のポイント
  • 2SC1815は東芝のオリジナルが生産終了した後も、セカンドソース品として現役。 秋月電子でYランク20個100円で買える
  • TO-92のピン配置は平らな面から見て E・C・B。 2N3904(E・B・C)、BC547(C・B・E)とはすべて異なる
  • 同じ型名でもメーカーが違えば規格表も違う。 コレクタ損失は東芝/JCETが400mW、UTCが625mW。手元の石のデータシートを見ること
  • スイッチとして使うなら強制hFEで設計する。 hFEの実力値をあてにせず、必要量の10〜20倍のベース電流を流して確実に飽和させる
  • hFEは測定条件込みの数字。 「Yランク120〜240」は V_{CE}=6\text{V},\ I_C=2\text{mA} での値で、テスターのhFEレンジとは条件が違う
  • Yランクの6本を実測したら227〜244に密集した。 規格が許す幅(120〜240)に対して実物のばらつきは約7%しかなく、しかも全数が上端寄り。YとGRの重複帯(200〜240)にすべて入った
  • 実測でも設計どおり深く飽和した。 VCE は67mV(データシートTYP 0.1V以下)、実効的な強制hFEは約20、コレクタ損失は1.1mW(定格625mWの0.2%)
  • 測った電圧はループで足すと電源に戻る。 LED 2.065V + RC 2.470V + VCE 0.067V = 4.602V に対し電源実測4.60V。足して合わないときは、測り方を疑う(点滅させたままのテスターは平均値を読む)
  • ONとOFFの速さは別々の数字。 ターンONは数十nsなのに、ターンOFFは蓄積時間 約1.3µs ぶん待たされる。スイッチング時間が規定されていない部品は、必要なら自分で測る
  • 回路が変われば効いてくる定格も変わる。 非安定マルチバイブレータでは VEBO=5V が電源電圧の上限を決める
  • エミッタ抵抗REによる電流帰還が、hFEのばらつきを吸収する。 だから増幅回路の設計にhFEはほとんど出てこない。実測でも動作点は設計から5%以内に収まった
  • 利得152倍を実測。 ただしエミッタバイパスコンデンサ CE を1本抜くと約4倍まで落ち、代わりに歪まなくなる。利得と線形性はコンデンサ1本で取り引きされている

1個5円の部品でも、データシートを最後まで読んで回路を組むと、これだけの話が出てきます。部品の値段と、そこから学べる量は比例しません。

次回の「IC実験室」でも、引き出しの中の1種類を最初から最後まで味わい尽くします。


参考


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